
写真=松林満美
―“こと葉”の役作りはどのようにされていましたか?
こと葉という人物が、あまりに私自身と似ていて、「役を作る」というよりも、そのままぶつかっていったという感覚でした。こと葉は、不器用なんだけど真っすぐで、そのひたむきさが魅力。よく言えば素直で、悪く言えば頑固で(笑)。そんなところが似てるな、と思いましたし、彼女の言動が、違和感なく理解できたんです。佐々部清監督からは、「“比嘉愛未”と“こと葉”が合わさって、“まな葉”になってほしい」と言っていただいて、頭じゃなくて心でこと葉の言葉を届けようと心掛けながら撮影に臨みました。
―「スピーチライター」という職業については勉強されたのですか?
はい、一から勉強しました。このドラマの監修者でスピーチライターの蔭山洋介さんにお話を聞かせていただいたり。ただ、一言で説明できる仕事ではなく、本当にいろいろなことをされるんです。クライアントさんが、人前に立って輝くために、トータルで演出をする。ドラマで言えば監督さんのような立場だと思います。難しいですけど、すごく素敵な仕事だなと思いました。
―劇中では、すばらしいスピーチやセリフがたくさん出てきますね
素敵な言葉が、必要としている人に寄り添うように出てくるので、本当にすばらしいですよね。特に心に響いたのが、「愛せよ。人生においてよきものはそれだけである」という言葉。私の人生のテーマなのかなとも思える言葉でした。私の名前は「愛未」なのですが、由来が「愛をもって未来永劫、愛し、愛される人に育ってほしい」という親の思いが込められているそうなんです。改めて、「愛」という字をいただいた意味というか、これから私がすべきことはそういうことなんだ、と気付かされました。
―まさに運命的なセリフとの出会いですね
いまのお仕事を好きになったのも、役を通して勇気付けることができたり、感動を届けることができる、そんなお仕事だからなんです。ある意味、「愛」のあるお仕事だと思っていて、もしかしたら「宿命だったのかな」とも思えるんです。そういうことに改めて気付くことができた、ターニングポイントになる作品に出会えたと思います。
―初共演の長谷川京子さんとはどのようなことを話されましたか?
役作りというよりは、世間話とか、京子さんの子育ての様子とか、いろいろお話しをさせていただきました。お仕事もバリバリこなしながら子育てもされていて、京子さんは人生の目標という存在なので、ドラマの劇中でも現実世界でも、素敵な先輩として頼りにさせていただきました。
―八千草薫さんなど、素敵な女性が登場しますね
八千草さんは、癒しパワーがあり本当に素敵な方でした。歌人という役柄で、まさに適役だと思いました。言葉に説得力があるんです。声がスッと心に入ってくるというか…。八千草さんが培ってこられたこと、お人柄がそうさせているのかなと思います。八千草さんがおばあちゃん役で本当によかったと思います。ご一緒させていただけて、とてもぜいたくな現場でした。
―物語に引き込まれる、魅力的な脚本・ストーリー展開ですね
“連続ドラマ”という感覚ではなく、“映画”をつくる感覚で撮影していました。佐々部監督が「1本の長編映画を作るつもりでやる」とおっしゃっていたんです。WOWOWさんのドラマは、徹底的に時間をかけて作り上げるイメージがあって、映画とドラマのいい部分を凝縮したものづくりができる、という印象通りの撮影でした。連続ドラマWには、そういう憧れのようなものがあったので、主演させていただけて、本当に光栄です。
―佐々部監督の演出はいかがでしたか?
ずっと憧れていた方なので、ご一緒できるだけでも幸せだったのですが、まわりの俳優さんたちからの信頼が絶大で、ご一緒してその理由がわかりました。誰よりも熱くて、誰よりも繊細で、涙もろい、素敵な方なんです。その人柄に惹かれて、みなさん一緒にがんばろうという気持ちになるのだと思います。人物や感情を、より大切にされる方で、撮影は長回しが多かったんです。スピーチのシーンは緊張するので、それが相乗効果で、シーンが締まるんです。みんなが本気でやることで、それが映像ににじみ出ているんだと思います。
―まさにスピーチライターの演出がそのまま映し出されているんですね
ある種のドキュメンタリーかもしれませんね。みんながいい緊張感を持って、本気で伝えようとしているのが、克明に描かれていると思います。
―ご自身が、これまでに「言葉の力」を感じた瞬間はありますか?
10年前に上京して、初めてオーディションを受けて、ドラマのお仕事をさせていただくことになったとき、1年間かけて役を演じたのですが、一向に満足できず、すごく悩んだ時期があったんです。そのときに、共演していた草笛光子さんに相談させていただいたことがあって。そしたら、草笛さんは笑いながら、「私は50年、女優をやってきたけど、一度も満足したことないわよ」とおっしゃったんです。すごく心に響いて、救われて、それからくじけそうになったときはその言葉を思い出して、このお仕事をやらせていただいています。
―そういう力を持ったドラマということなんですね
たくさんの素敵な言葉がちりばめられていて、優しく伝わってくるので、年齢や性別に関係なくいろいろな方にとって、心に残るものがあると思います。私自身がこの作品に救われたことがたくさんあるので…。改めてこうしてお話しすると、本当に素晴らしい作品だったんだなと実感します(笑)。
―ありがとうございました
比嘉愛未(ひが・まなみ)
1986年6月14日、沖縄県出身。
2005年の映画『ニライカナイからの手紙』で女優デビュー。2007年、NHK連続テレビ小説「どんど晴れ」のヒロインでドラマ初出演。主な出演作に、映画『僕等がいた』『飛べ!ダコタ』『カノン』など。2017年2月15日に、東京・足立区発ドラマ「千住クレイジーボーイズ」(NHK BSプレミアム)が放送予定。三木孝浩監督映画『先生!』が2017年に上映予定。
スタイリスト=後藤仁子
ヘアメイク=奥原清一(suzukioffice)
<衣装協力>
ソブ/フィルム(03-5413-4141)
Shaesby/Shaesby 伊勢丹新宿店(0120-62-4377)
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