
―原作を読んだ印象を教えてください
二階堂ふみ(以下、二階堂) 面白く読みました。それと同時に気になったのが、八田先生がどういう目線でこのお話を描いているんだろう? ということだったんです。描き手が女性だと女の子側に自分を投映することが多いと思っていたのですが、先生が現場にいらっしゃったときにうかがったら「まったく逆なんです。恭也に自分を投影していて、エリカは私の好みの女の子なんですよ」とお話ししてくださって。だからこそ、ああいうまっすぐで面白い展開が描けるんだなと思いました。エリカの気持ちだけではなくて、恭也のちょっとした気持ちの変化や動きがキーになっている原作なので、そこがすごく面白かったです。
山﨑賢人(以下、山﨑) 最初に一巻を見たときに、男(恭也)だけが描かれている表紙にびっくりしました(笑)。現場でふみちゃんから今の話を聞いて、そうだったんだ、と。恭也のキャラも、エリカを自分の犬にしたがるという設定も強烈ですよね。自分を犬にしようとしている人を絶対に好きにならないだろうと思って読み進めていくと物語が展開していって、そこが面白いと思いました。
―それぞれが演じたキャラクターについて、どんなところに魅力を感じましたか?
二階堂 ひたむきなところですね。エリカは嘘をついているという大前提はあるのですが、自分のなかに生まれてきた感情にはものすごく素直で、そこには嘘をつかないし、ごまかさない。まっすぐで素敵だなと思いました。
山﨑 恭也って実は恋愛に関してはピュアで、弱い部分やバリアを張っているところがあるんですよね。本性を知っていくと本当はいい奴で、考え方が大人でちょっと不器用。優しさを表現できなくて、ふざけちゃうところも魅力だと思います。セリフっぽいセリフが多いのですが、そこを変えてしまったら恭也じゃなくなるので、いかにナチュラルにできるかを心がけました。
―ルックス面でのこだわりなど、キャラクターを表現するために心がけたことは?
二階堂 成長しながら女の子としての変化が大きく感じられるキャラクターなので、衣裳にもこだわりました。最初の頃に比べると制服のスカートが短くなっていったり、前髪の具合が変わったり、細かく変化させています。私服は監督と一緒に買い物に行って、自分でスタイリングさせてもらいました。恭也と比較するとエリカは強烈なキャラクター性があるわけではないのですが、観ている人がエリカの目線になりつつも、たまにエリカを外から見ながら応援したくなるキャラクターにしたいなと思っていましたね。
あとは、山﨑君との距離を大事にしていました。カメラが回っていないところでのコミュニケーションが近ければ近いほど、カメラの前に立ったときにとことんエリカになれると思ったし、余計なことは排除されていくのかなと。
山﨑 原作のファンの方がたくさんいるので、金髪にしてもらいたいというお話が最初にありました。金髪にするならカツラは嫌でしたし、染めたときに恭也に近づけた気がしたので、形から入れたことがとてもありがたかったです。
―廣木隆一監督はお2人にとって、どういう演出をされる方でしたか?
二階堂 “決めない方”ですね。そこで生まれてきた感情や空気を大事にされる方で、心地よかったのと同時に、ただ野放しにするのではなく、監督の芯が固まっているからこそ私や山﨑君に自由にやらせてくださっているっていう感じはありました。
山﨑 あまり演出をするというよりは、道が逸れてしまいそうになったときに正してくれるというか。そういうぶれないものがあって、全幅の信頼を置けました。
―映画では初共演になりますが、それまではお互いにどんなイメージを抱いていましたか?
二階堂 初めて現場でご一緒したのはドラマ「熱海の捜査官」だったのですが、映画みたいな現場だったんです。私と同じ年、同じ学年で、山﨑君は初めてのお芝居で。監督がおっしゃった何気ない一言や演出を、きちんと自分の体に自然に落とし込める、素直で思いやりがあって優しい人だなと思いましたね。
そして今回は、きっと6年間で色んな人と出会って色んな経験をして、多くのことを培って、たくさんの映画で女の子たちの憧れの象徴になっているからこそ、作品に対する思いやりも持てるんだろうなと感じました。主演としての揺るがないところと柔軟なところの両方があって、そこに成長を感じましたし、また現場でご一緒できてよかったなと思います。
山﨑 ありがとうございます(笑)。ふみちゃんは出会った6年前と、いい意味で変わっていないと思いますね。あの頃からすでにしっかりと自分を持っていて、好きなことがはっきりとあって、突き進んでいる感じがしていました。そういう部分は、全然変わらないです。
この作品は少女漫画のキラキラした世界が描かれているのですが、ふみちゃんにはそういうイメージはあまりなかったんですね。でも今回のふみちゃんはめっちゃキラキラしていて、新しいイメージイメージだなって(笑)。そういう作品をこうして6年ぶりに一緒にできたことがうれしかったし、現場で色んな話をしたこともよかったなと思っています。
二階堂 前の撮影からだと、6年経つからね。
山﨑 怖くない?
二階堂 あっという間だね。でもそんなもんかな、って(笑)。何十年もやられている先輩たちがいるので、お互いにまだまだだなっていう感じです。
―お2人のお気に入りのセリフやシーンを教えてください
二階堂 セリフももちろんよかったのですが、言葉じゃないところの2人の関係の変化が見どころなんじゃないかと思っていて。2人の関係の象徴としての引きのカットも多くて、劇場で見るからこそ面白い作品になっていると思います。関係性が進んでいくのも、どこかポイントがあってガッと近づくというよりも、映画を観ながら変化を実感していくというか…。エリカと恭也がそれぞれひとりのシーンもあって、2人が寄り添っていく空気がすごくよかったなと。言葉じゃなくて、心と心がふわっと寄り添った瞬間がある映画だと思います。
エリカと恭也だけではなく、エリカとさんちゃん、エリカと日下部…、もちろんラブコメディなんですけど、みんなの成長の物語にもなっていますよね。日下部君やさんちゃん、みんなの表情もすごくいいんです。どれかひとつのセリフは選べないのですが、小沢健二さんから連絡をいただいて「今夜はブギー・バック」を歌えたのもすごく楽しかった。私たちの世代だと結構この曲を知らない子も多いけれど、ジェネレーションが違う方もふと感情が入っていくポイントになったんじゃないかと思います。シーンとしては中華街で2人で会ったあと、走って終わるところが好きですね。2人にとっては、この関係がいいんだなってことがよくわかるシーンになっていて。男の子と付き合ったことがないから周りの友達の話にあわせて、恋愛ってこうじゃなきゃ、と思っていたエリカが、素直に人のことを思って2人だけの形を築いていこうとするところがいいなと思いました。
山﨑 風邪をひいて部屋に来てくれるシーンがすごく好きですね。エリカの無償の優しさが伝わるシーンだと思います。セリフとしては、「プレゼントなんてあげたいときにあげればいいんだよ」が、かっこいいなと。俺もそうしよう、って(笑)。
二階堂 教訓になった?
山﨑 そう、恭也様に学ばせていただきました(笑)。
―二階堂さん、ひとりの女性としては、恭也みたいなタイプについてはどう思いますか?
二階堂 個人的には日下部君が好きなんですけど(笑)、恭也はかっこいいですよね。すごくドSってことではなく、感情をあまり表に出さず、でもちゃんと相手のことを見ている人だと思うんです。小さな変化に気付けるって、それだけ相手のことを見ていて優しい人だからだと思うので、そういうところはすごく素敵な男の子だと思います。
あと、山﨑君が演じているからこそ、ちゃんと女の子が憧れる象徴みたいな人になっていますよね。それは作ってどうこうなることではなく、山﨑君のカリスマ性だと思います。映画版の恭也は原作とはまた違う魅力があるので、観た女の子たちも魅了されるんじゃないかなと思いますね。
―山﨑さん、エリカについてはどうですか?
山﨑 “オオカミ少女”ですけど、根はすごく素直でまっすぐで、人に対する思いやりがある女の子なので、すごく好きですね。“オオカミ少女”になっちゃう理由もわかるし、一緒にいたら楽しそうだなと思います。
―ありがとうございました。
二階堂ふみ(にかいどう・ふみ)
1994年9月21日生まれ、沖縄県出身。
2009年、役所広司初監督作品『ガマの油』に抜擢されスクリーンデビュー。2012年公開映画『ヒミズ』では、第68回ヴェネツィア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞、第36回日本アカデミー賞で新人俳優賞を受賞。近年では、2014年の『私の男』『渇き。』、2015年の『味園ユニバース』などに出演。2016年には『オオカミ少女と黒王子』を入れて5作品が公開予定。最近は文筆の仕事にも精力的に取り組んでいる。
山﨑賢人(やまざき・けんと)
1994年9月7日生まれ。東京都出身。
2010年、ドラマ「熱海の捜査官」で俳優デビュー。翌2011年、映画『管制塔』で初主演を飾り、2012年も映画『リアル鬼ごっこ3』『アナザー Another』と主演作が続く。2015年には、連続テレビ小説「まれ」や連続ドラマ「デスノート」のL役、映画『ヒロイン失格』『orange-オレンジ-』がヒットし、第39回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。7月スタートフジテレビ月9ドラマ「好きな人がいること」に出演。公開待機作に、2016年の映画『四月は君の嘘』、2017年の映画『一週間フレンズ。』などの話題作が続く。