
■さまざまな顔を見せる、今までにない作品
―『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』は、ストーリーがエンターテイメントからミステリー、人間ドラマへと変化し、いろいろな顔を持っている作品のように感じました。この映画を作る中で一番意識したことは何ですか?
観客の方々がいろいろ考えたり、自分と照らし合わせたりして、見た後に何か持ち帰ってもらえる作品になれば、と思いながら作りました。今回は、最近の映画では少なくなったオリジナルストーリー、しかも主演は狂言師の野村萬斎さんということで、まずプロデューサーや脚本家の古沢良太さんと一緒にメインプロットを考えました。皆さんには、この作品が提示する世界を面白く見てもらえたら最高ですね。
―金子監督は、この作品を「ロマンティックなもの」と捉えているそうですね
記憶というのはロマンティックなものなんじゃないかと思っています。僕は子供のころのことをよく覚えているというのが自慢なんですが、同級生と会って話すと、どこか自分で美化していることに気付くんです(笑)。
僕には、記憶自体がロマンティックなものであってほしいという想いがあります。映画の中では、仙石の思念を読み取る特殊能力がなければ、ここに登場する連続殺人事件の真相は埋もれていました。ところが、消えていく人の想いが仙石を通してよみがえることにより、作品が新たな顔を見せていきます。そういう意味では、今までにない映画だと思っています。
■映画俳優ではない人たちが持つ、独特の魅力
―今回初めて「平成の男」を演じた野村萬斎さんはいかがでしたか?
謙虚な方で、「(平成の男として)違和感があったら言ってください」とおっしゃってくれました。萬斎さんが演じる仙石は暗い男ですが、ご自身は明るい人なので、「根暗」という言葉をインターネットで検索して研究したそうですよ。狂言師ということもあり、声がよく通るので、映画ではそれを仙石というキャラクターに合わせるよう演出しました。
―萬斎さんも含め、今回は普段、俳優以外の仕事に軸足を置いている方が出演されています。萬斎さんは狂言師、元相方・丸山役の宮迫博之さんはお笑い芸人、そして2人とともに行動するエリート刑事・佐々部役の安田章大さんはアイドルグループ・関ジャニ∞で活動していますが、そういう方々の役者としての魅力は何ですか?
確かに3人とも映画俳優ではありませんが、現場に集まって芝居をしていると違和感はありません。でも、それぞれの分野で培ってきたものがあって、萬斎さんは狂言師なので先ほども話したように声が通るし手の動きも素敵、宮迫さんはお笑いの世界で活躍しているので、相手の出方によって返すという普通の俳優にはないものを持っています。安田くんは、アイドルとして観客をひきつける力があります。現場での集中力の出し方も知っているし、若い方でこれだけできるのはすごいと思いました。自分からいろんなアイデアを出してくれて、これからどんな俳優さんになっていくのか楽しみです。また一緒に仕事をしたいですね。
■教育学と演出は似ている――金子組の現場とは?
―監督はこれまでにもいろいろな俳優さんと仕事をされていますが、初めてご一緒する方とコミュニケーションをとる上で大事にしていることはありますか?
普通の人がそれぞれ違うように、俳優さんもさまざまな個性を持っています。だから、まずはどんな人なのかということを見ますね。そしてこの人はどこを撮ってほしいのか、というのを引き出したいと思っています。そうやって俳優さん自身を知ることを大事にしながら、こちらの要望を出すようにしています。
それと、僕は大学の教育学部出身なんですが、教育学は演出と似ていてやる気を出させるということが大事です。現場ではあまりこうしろと言いませんが、自然とやる気が出るような雰囲気づくりをしています。
―最後に、これから観る人に向けてメッセージをお願いします
オリジナルストーリーのこの作品を楽しんでもらいたいです。もしつまんなかったとしたら私の責任です。でも面白いと思ったら、俳優の皆さんに拍手をしてください。そして、結末は内緒にしておいてもらいたいですね。
―ありがとうございました。