「つながっていくことの大切さが作品の中に散りばめられている」/映画『水上のフライト』小澤征悦インタビュー

映画『超高速!参勤交代』シリーズなど大ヒット作を数多く手掛けてきた脚本家・土橋章宏が、実在するパラカヌーの日本代表選手との交流を基に、どん底から立ち上がる女性の成長を描いた感動作。企画・脚本をTSUTAYA CREATORS’ PROGRAMに応募し、審査員特別賞を受賞してついに映画化となった。主人公・遥は、若い女性から絶大な人気を誇る中条あやみが演じる。交通事故で歩けなくなった遥を、父親代わりに厳しく熱く導いていくコーチの宮本を演じるのは、俳優やコメンテーターとして活躍する小澤征悦だ。明るく遥を後押しする宮本を演じた心境を聞いた。

写真=三橋優美子

―撮影よりだいぶ前から作品に携わられていたそうですね

私も中条(あやみ)さんも、出演する子供たちも、カヌーを扱うのが初めてだったので、みんなで集まってカヌーの練習をさせていただきました。それに、脚本も素晴らしかったんですけど、実際に役者が演じるにあたってより良くするために兼重(淳)監督と話し合って、直すところは直させていただいた。カヌーの練習があったおかげでそのような時間を取れたことも、よかったですね。子供たちも、撮影が始まる頃には自分のことをコーチとして見てくれていました。暑かったですけどね(笑)。真夏で、カヌーで川に出ると日陰もないので大変でした。

―中条さんはかなりカヌーの才能があったと聞きました

才能あったと思いますよ。レース用のカヌーって、普通のカヌーよりバランス感覚がすごく難しいんですよ。僕も一度、乗せてもらったことがあるんですけど、補助の方が手を離した瞬間に川に落ちましたもん。沈(ちん)する、って言うんですけど。努力もすごくされていたと思いますね。現場でもたくさん練習されていました。

―中条さんとは初共演ですね

ずっとテレビや映画で拝見していて、一度ご一緒してみたいなと思っていたんですが、今回初めて現場でご一緒させていただいたら意外な一面というか・・・関西のご出身で、サバサバしていて底抜けに優しい方で、女優としてひたむきに自分の役に接してらした姿を見て、なるほど、こういうところが魅力的なんだなと感じました。

―今回、宮本浩という人物を演じる上で気を付けたことは?

さまざまな事情のある子供たちと接する立場だからこそ、度量の大きさと明るさを持った人物であることを意識しました。監督とは、あまり周囲に理解されないけどへこたれないというか、くじけねーぞ、という、いわゆる“昭和のおっさん”な姿を入れていこうと話しまして(笑)。遥がカヌーへの挑戦を打ち明けるシーンで、「バッチグー!」ってやるんですけど、あれはアドリブなんですよ。監督から、何かやってくれと言われて。「それ“昭和”ですごくいい!」と(笑)。

―監督も「絶対的なムードメーカー」とおっしゃっていました

ありがとうございます(笑)。ほかの作品の現場ではあまりムードメーカーになるようなことはないんですけど、今回は役柄もそうですし、若い出演者が多い中だったので、現場の雰囲気が少しでも和んで撮影がうまくいくのであればピエロになろうと。信じてもらえないかもしれないですけど、普段は根暗なほうなんですよ(笑)。宮本という陽気なキャラクターが僕自身に近いかというと疑問ですが・・・以前、共演した女優さんに「ダジャレばっかり言っているからやめてほしい」みたいに言われたことがあるんですけど、そんなはずないんだけどなぁ・・・。でも、「バッチグー」は自然と出てきました(笑)。

―交通事故で歩けなくなったヒロインが新たな夢に向かう、強いメッセージのある作品ですね

おっしゃる通りで、夢を追う中で何かにぶつかって挫折してしまい、でもそれを乗り越えて新たに挑戦していくって物語は普遍的なものだと思います。それに、今回はパラカヌーという題材を通じて、家族の愛とか、先生と生徒の友情とか、仲間を思う気持ちとか・・・つながっていくことの大切さが作品の中に散りばめられていると思うんです。今、こんな時代ではありますが、人って、人とつながることで限界以上の力が出せるものだし、この映画を見て、もう一度それを発見してもらえたらいいなと思います。そんな中で、おバカなコーチがいてもいいかなって(笑)。

―今回の撮影の中で印象的なシーンはどこですか?

自分のセリフなんですけど、遥がカヌーでスピードを上げて進んでいくのをうしろから見ながら、「川面(かわも)を走る風になれ!」と言うんです。それがすごくきれいな言葉だなと思って、鮮明に覚えています。あと、子供たちが楽しんでいる姿が映像に映っているのを見るとホッとしますね。子供たちがカヌーに落書きしたりはしゃぎ合ったりしている、自然な様子を映し出しているカットがあって、すごく優しさに包まれた、いい映像だなと感じました。

―ありがとうございました

小澤征悦(おざわ・ゆきよし)
1974年6月6日生まれ、アメリカ合衆国カリフォルニア州出身。
近年の主なドラマ出演作に、2018年の「もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~」、2019年の「いだてん~東京オリムピック噺~」「ハケン占い師アタル」「アフロ田中」、2020年の「頭取 野崎修平」「パパがも一度恋をした」(主演)など。近年の主な映画出演作は、『探検隊の栄光』『JUKAI-樹海-』『64-ロクヨン-前編/後編』『海よりもまだ深く』『引っ越し大名!』『弥生、三月-君を愛した30年-』『一度死んでみた』など。主演の日本語吹き替え版を務めた『キングスマン:ファースト・エージェント』が2021年2月11日(祝・木)公開予定。

ABOUT
自分の実力に絶対の自信を持つ高慢な遥(中条あやみ)は、走り高跳びで世界を目指し、有望スポーツ選手として活躍していた。だがある日、不慮の事故に合い、命は助かったものの二度と歩くことができなくなってしまう。将来の夢を絶たれた遥は、心を閉ざし自暴自棄になるが、カヌー教室のコーチ・宮本(小澤征悦)ら周囲の人々に支えられパラカヌーという新たな夢を見つける。
配給:KADOKAWA
公開日:11月13日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
公式サイト:https://suijo-movie.jp/
(C)2020 映画「水上のフライト」製作委員会