「映画のお話をいただいて『やるしかない!』と思った」/『ニワトリ★スター』紗羅マリーインタビュー

2013年に電子書籍で発表された同名小説を、作者で本作が初監督映画となる元板前、現アパート大家のクリエイター、かなた狼が自らの手で映像化した意欲作。映画制作のため、各分野の才能を集結させたクリエイター集団を立ち上げ、独創的な音楽や映像演出、アニメーションなどを融合させた。本作で、幼い息子のティダを育てながら覚せい剤依存に苦しむ月海を演じるのが、本作が映画初出演となる紗羅マリーだ。台湾や香港、北京など国際的に活躍する彼女に話を聞いた。

写真=小林玲

―映画初出演。最初に出演の話を聞いたときはいかがでしたか?

実は、監督とは何年も前に一度だけお会いした事があったんですが、いきなりメールが来て、「映画を作るから、出ないか」と。そこから電話でストーリーを軽く聞かせてもらい、その場でやりたいです! とお伝えしたんですが、後日、すべてのストーリーを読ませてもらった時、さらに「出たい!」と思いました。いざ台本が届いた時、役名の下に自分の名前があることに感動と緊張、実感を感じ震えました。

―撮影前にワークショップをされたそうですが、どのような内容だったのですか?

監督と成田凌くんと私の3人だけで、1つの部屋にこもって、「手をにぎって見つめ合って、自分の人生について全部言え」と言われました。親や友達にも言っていないような、一人で抱えていることを全部出せ、と。それは3人だけの秘密で、墓場まで持っていくこと、という条件で、3人それぞれの秘密をさらし合いました。親にすら言っていないことを共有し合っているので、何があっても大丈夫という信頼関係が築けました。心強かったですね。

―ワークショップの前と後では、お二人に対する印象も変わりましたか?

はい。すごく変わりました。成田くんは前の作品が終わったばかりで髪は長く、頭にタオルを巻いてヒゲも生やしていたので、なんだかイキがよさそうなお兄ちゃんだな! と思ってたんですが、ワークショップを終えてからは、とても繊細で柔軟性のある優しい人だと知りました。まず、こんなに年下だったとは(笑)! 私より大人です。

―役作りもそのような流れで行っていったのですか?

監督から特に指示をもらったわけではなく…。痩せる必要があったので、今より6kg減量しました。それから、“月海の匂い”を探しに行きました。夜のお仕事をしているので、香水をつけると思ったんです。でも、子供を育てながら、裕福というわけではなく、そんな中で買う香水ってどういうものだろう…と思って、いろいろなお店を見てまわって、有名なブランドから出ているボディークリームを買って、それを“月海の匂い”にしました。

―ご自身にも3歳になる息子さんがいらっしゃいます

親子なので、無償の愛だったり、息子が将来どんな人間になるのかという喜びや不安はどの親でも感じることだと思うので、私が自分の息子に接する態度や気持ちを月海もティダにするだろうと素直に思いました。ただ、そこで親が薬物に染まってしまい、ボロボロになり、100%で息子と向き合えない、傷付けてしまう月海の気持ちを考えると、本当に苦しかったです。

20180315-01_sub01―原作や脚本を読んだときの印象はいかがでしたか?

原作を読んだ時は、もちろん想像しながらストーリーを頭でも進めていましたが、やっぱり、映画として完成した映像を観たら、私の思い描いていた原作を読んだ時の頭の中をかるーく地球一周分越えていたので(笑)、「すげー! 監督、すげー!」って感じでした。あと、楽人(成田凌)が月海に対して見せないようにしてきた世界があるので、なるべくそこは読まないようにしていたんです。撮影中もかかわらないようにして。映像になってはじめて、楽人がどうやって月海と息子のティダを守ってきたのか、というのを知って、月海と同じ気持ちで見ていました。

―監督は本作が映画初監督作品。どういう方なんですか?

初めて会う方は「目ヂカラがすごい」って思うと思います(笑)。でも、本当は誰よりも寂しがり屋さんで、誰よりも優しくて、ちょっとつつくと照れる笑顔が、「きっと小学生のころから変わらないんだろうな」という感じの、ピュアな人です。だからこそ、つらいことも人一倍受け止めてこられたのだろうなと思いますし、それを今回、映画という形でアウトプットできたことで、彼自身も発散できたと思います。映画を撮る前と後では顔が違いましたからね。

―改めて、「やりたい」というモチベーションはどこから感じたのでしょうか

若い頃は、「演技は向いていないから、モデルだけやりたい」と周りに言っていたんです。でも子供を産んで、30代にもなり、自分で自分の限界に線引きをしていたことに疑問を持つようになったんですね。やったこともないのに、できないと決めつけている自分がもったいないと感じるようになったのと、知らない世界を見てみたいという思いと、子供が大きくなったときに「ママって何でも知ってるよね」って言われたい気持ちで。そんなときに、ちょうどこのお話をいただいたので、「やるしかない!」と思ったんです。

―女優という仕事に踏み出して、なにか成長を感じることはありましたか?

人と話せるようになりました(笑)。昔の私を知っている(井浦)新くんにも言われたんです。「紗羅は変わったよね。こんなに社交的になるとはね」って(笑)。昔は本当に人と話すのが苦手で、知らない人は顔も見られないくらいだったんです。だから、手をつないで秘密を話すなんてとんでもないことなんですよね(笑)。でも、子供ができて、「子供は親の背中を見て育つんだ」と思ったら、そのままじゃいけないなという思いで、変わってきました。

―今後、挑戦してみたい役はありますか?

コミカルな役に挑戦してみたいです。できるなら、一風変わった役をずっとやっていたい。でも、演じるのって「普通」が一番難しいと思うので、純粋な恋愛とか、そういう演技ができるようになって初めて、このお仕事が「できるようになった」と言えるのかもしれないですね。だから、そういう役もいつかできるようになりたいです。

―最後にメッセージを

すべてのことがリアルで、怖い映像や暴力のシーンもたくさんあるので、女性は特に怖くなる瞬間があると思います。ただ、その中で人間の「愛」というものが何よりも強くて、揺るがないものであるのがわかるので、その強さを見ていただきたいです。

―ありがとうございました

20180315-01_sub02紗羅マリー(さら・まりー)
1986年12月12日、愛知県出身。
多数の雑誌やショーに出演し、10~20代の女性から絶大な人気を誇る。「otonaMUSE」「InRed」「SPRiNG」「Gina」などに出演中。現在は、映画、ドラマ、舞台に出演するなど、女優として活躍の場を広げている。

ABOUT
東京の片隅にある奇妙なアパート“ギザギザアパートメント”。深夜のバーでアルバイトをする草太(井浦新)と楽人(成田凌)は、ひそかに大麻の末端売人をしながら自堕落な共同生活を送っていた。一方、シングルマザーとして幼いティダを育てる月海(紗羅マリー)は、覚せい剤の依存に苦しんでいた。ギザギザアパートの奇妙な住人たちと気ままに生活する草太と楽人だったが、ある日、街の不良を影で操るヤクザ・八田と爬部井、草太に大麻を卸す不良ラッパーJが禁断の扉を開け…。
配給:マジックアワー、GUM WORLD
公開日:3月17日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、3月24日(土)より、シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://niwatoristar.com/
(C)映画『ニワトリ★スター』製作委員会