
写真=松林満美
―モデルとなった雪村さんご本人にも会われたとのことですが、それぞれどのように演じようと心がけられましたか?
平塚千瑛(以下、平塚) 私は、全身整形して生まれ変わった後の葉子を演じたんですが、心の傷を持ちつつ、どのような心境でどう葉子を演じればいいのかを考えました。西川さんとも相談しながら、かつての自分自身が「そんなことでいいの?」と語りかけることからも、生まれ変わった葉子は、心の中では過去ときっぱり決別した葉子として演じようと決めました。実際に雪村さんにお会いしたとき、すごく雰囲気が私自身と似ていて驚きました。とにかく原作に忠実に雪村さんを演じなければならないと思い、常に「これでいいのか?」自問自答を繰り返していました。
西川可奈子(以下、西川) こんなつらい出来事が実際にあることに衝撃を受けましたし、ご本人とお会いして、この経験を乗り越えて、今とても明るくおられる雪村さんの強さに驚きました。私と平塚さんの共通した思いとして、雪村さんの背負った人生を忠実に描きたいという思いがあったので、ご本人にはかなり踏み込んだ質問もさせていただきました。家族のこととか、事件があったそのときの心境とか、そのあとどうしてそういった仕事をしたのか…。聞いたからには、私たちもできる限り作品にぶつけたい、という思いがありました。
平塚 雪村さんは何度も現場に足を運んでくださいました。一番最初にお会いしたときから、「演じる上で役に立つなら、なんでも聞いて」と言っていただいたんですが、最初はなかなか伺えなかったです。とてもフレンドリーな方で、私たちが核心に触れた質問ができないことを察して、ご自分から思い出すのもつらい過去の経験を詳しく話してくださいました。
西川 共演者の方も大勢いる控室に来てくださって、本当に気さくに声をかけていただいたので、私たちもだんだん深く話を伺えるようになっていきました。ご自身のほうからもどんどん話してくださったので、助けられました。
―主観の視点で物語が進んでいきます。普通の撮影とはだいぶ違ったのでは?
平塚 私の顔の前にカメラが来るよう、ずっと私の横にいた撮影監督の高間(賢治)さんと二人三脚の撮影でした。もちろん大変ではあったんですが、私の場合は大きな動きが少なかったので、まだやりやすかったと思います。私は、服装やメイク、マニキュアなどシーンごとに変わっていたんですが、主観撮影なので基本は映らないんですよね。でも、高間さんがすごく気を使ってくださって、なんとか足元を見る動きやちらっと自分の体が映るような視線の動きをしてくださいました(笑)。でも、動き過ぎると高間さんの足も映ってしまって撮り直しになってしまって…。1カットで20テイク以上したシーンもありました。しかも、主観だから相手の俳優さんはカメラを見なくてはいけないんですが、私が相手の目を見てしまうことで視線が私に来てしまうのではないかと恐れて、ずっと下を向いていたら、相手役の役者さんが「それだと感情が入らないから普通にしていていいよ」と言ってくださって。本当にまわりの俳優さんの力に助けられた撮影でした。それでも、1対1でのシーンが多かったので、西川さんのほうがずっと大変だったんじゃないかと思います。
西川 普通にお芝居したいな、って思いました(笑)。でも、相手をする俳優さんのほうが大変だったと思います。そんな中で、声だけで表現しないといけないこととか、普通ではないことに意識を置いたことは、新たな勉強にもなりました。皆さん初めての経験だったので、徐々に慣れながらみんなで作り上げていきました。私たちも、撮り終わるまでどう映ってるのかわからないし、みんな「どうなるんだこの作品は」という思いがあったと思います(笑)。
平塚 西川さんは、後半、客観的に姿が映りますけど、私は、「これ私じゃなくていいんじゃないか」って心が折れそうになりましたよ(笑)。映らないし、しゃべらないシーンもあって、「私、なんでグラス持ってるんだ…?」って思うシーンもありました(笑)。でも、完成した作品を見て、「あ、こういうことだったんだ」という正解が見えたというか、私が演じる意味が理解できました。
西川 鏡に姿が映るシーンも、みなさん、胸とかにカメラを隠してるんじゃないかって思われたみたいなんですけど、実は隣に高間さんがいるんです。それも、鏡に映る自分の目を見ちゃいけなくて、カメラを見なきゃいけないんですよ。それに慣れるまでちょっと時間がかかりましたね。
―改めて、この映画の見どころを教えてください
平塚 これは実話です。観る方にとっては、本当に衝撃的な内容だと思います。性被害のトラウマを抱えながらも苦しみや悲しみと戦い、自分の心を殺して生きる選択をした雪村葉子さん、冒頭10分は、目を覆いたくなるというか、席を立ちたくなるくらいのシーンもあるかもしれないですが、目を背けずに、雪村葉子さんの衝撃的な人生をぜひ劇場で観ていただきたいと思います。
西川 世界的にも問題視されている性犯罪に関する出来事。日本ではまだ、泣き寝入りされている方も多いと思います。葉子さんは、そういった方たちの思いを代表して手記を出版されているので、私たちもどんどん伝えていきたいですし、最初は暴力的な復讐心が、自分が幸せになることが復讐になるのだと達観するまでの、紆余曲折が生々しく描かれています。それを乗り越えていった葉子さんの人生が主観で描かれているので、観る方は“恐怖”かもしれません。でも、この作品でしか感じられないものがあるはずなので、一人でも多くの方に見ていただきたいと思います。
―ありがとうございました
左・平塚千瑛(ひらつか・ちあき)
1986年8月6日、山形県生まれ。
2011年「ミスアース・ジャパン」ファイナリスト。2012年「ミスユニバース・ジャパン」セミファイナリスト。2013年「ベストボディジャパン」グランプリを受賞。2017年、ファースト写真集「Birth」が発売。現在は、映画、ドラマ、舞台など芝居を中心とした活動を積極的に行っている。山形県米沢市観光大使。
右・西川可奈子(にしかわ・かなこ)
大阪府出身。
温泉入浴指導員と温泉ソムリエの資格を持つ。上京後、小劇場から大劇場まで舞台を中心に活動。2011年に「大奥~第一章~」、2012年「早乙女太一新春特別公演」、2013年「荊姫」「オルゴール」などに出演。現在、ドラマ「西郷どん」にも出演。『single mom』の公開を控える。