「濃厚な世界から現実に戻ったときの“めまい”を感じていただきたい」/舞台「家族熱」ミムラインタビュー

直木賞作家・向田邦子が、家族の秘密、謎、嘘といった暗部に視点を定めた「家族熱」。1978年にドラマ化された物語から3年後の世界を、合津直枝が脚本・演出を担当して舞台化した。歳の近い義理の母と息子が、“家族”という制約から解放され、秘めた思いを吐露することで激しく揺れる心情を艶やかに描く。美しい継母を演じるのは、NHKのドラマ「トットてれび」で向田邦子役を演じて絶賛され、自身も向田作品の大ファンであるミムラ。二人舞台で描く本作への思いを聞いた。

写真=松林満美

―大ファンである向田邦子さんの作品。意気込みを教えてください

向田邦子さんご自身の役を二度、演じさせていただいた経験があるのですが、そのきっかけになったのが、今回の舞台「家族熱」の企画・演出をされている合津直枝さんだったんです。向田さんご自身を演じることもとてもうれしかったのですが、さらに「向田作品に(登場人物として)出たい」という思いもあったので、その念願が、それも合津さんの作品で実現して、やったー! という感じでした。

―脚本を読んでの感想は?

ドラマ版で語られた物語の3年後が舞台、ということで、「すごいことするな」というのが最初の感想でした。個人的に思う向田作品の面白いところは、人の裏側を洗いざらい見せるのに、一番深い底は見せずにふたを閉じる品のよさというか、「このあとも人生は続く」ということを強く残す点だと思っているんです。でも、今回はそのふたをもう一度開けて、3年間、たまっていたものを見せるという点が、禁忌的でチャレンジングだと感じたんですが、向田ファンの合津さんがやるなら面白いに違いないと思って読みました。すると、やっぱり面白くて、でもこれを演じるのは大変だぞ、とも思いました(笑)。

20180521-01_sub01―“二人舞台”というシチュエーションでもあります

はい、とても楽しみです! たくさんの努力と工夫が必要というのがわかるので、もちろん難しさはあると思います。観てくださるお客様を物語の舞台に徹頭徹尾、たった二人で連れて行く難しさや、リズムや音楽だけではどうにもならない二人芝居という“密室”の持つ密閉性は、挑戦してみたいと思う反面、いざやってみるとどうなるか未知数な部分もありますね。

―本番に向けての心構えはどのようなものでしょうか

二人芝居の特性と言えるかどうか…、嘘をつくと必ずバレるんです。だからこそ強い作品ができる。でも、この作品は、必ずしも本当のことを言わない、お互いがあえて隠しながら話したり、意図的に嘘をついたりするんですよね。それを、役者は“嘘をつかずに”演じるという…。そのあたり、誠実に演じる、誠実に嘘をつくことができれば、観てくださる方も深い世界に入り込んで、飽きることなく観ていただけるのだと思います。

―難しそうな反面、とても楽しみですね

本当にそうですね。脚本の面白さや向田邦子作品の持つ力を信じて、私たちが出し惜しみなく誠実に演じることができれば、素敵な作品にできると信じています。“一人芝居”というのも存在しますが、人間は関係性というものによってはじめて個性が発揮されるものだと考えると、二人芝居というのが究極の密度だと思うんです。それにトライさせていただけるなんて、本当に素晴らしい経験だと思います。

20180521-01_sub02―朋子をどのように演じますか?

朋子はとても興味深い人物だと思います。彼女自身は「私は隠すことなどないわ」と思っているんですけど、無自覚なところで隠していることなどが、杉男さんと話すことでどんどん明るみに出てきます。パッと見ると物静かに見えても、実は内面にものすごい熱を隠し持っている。そのあたりの無自覚さと、でも打算的にとっている行動もあって、私自身とは全然違う人物だというのが第一印象。でも、どこか共通する部分もあるだろうとも思いながら朋子を見ています。

―時代背景というのも影響するかもしれませんね

朋子の女性らしさというのも、その時代の女性らしさ、という面が大きくあると思います。役作りにあたって、なにかできることはないかと思って、向田さんがシャネルの5番の香水を愛用されていたことを思い出して、買ってきていつも付けてみたりしています。あの時代の持っている良さを生かしながら、古くならないものを作りたいなと思って。それに、朋子は“家”というものへの執着が強かったですし、彼女の日常が“家事”だったと思うので、私も家事をしながら台本のことを考えたりしています。

―共演の溝端淳平さんとのコンビはいかがでしょうか

杉男さんが持つまっすぐさと、溝端さんご自身が持つ実直さがすごく重なるな、と思っています。発言とか振る舞いとか、あれこれと欲張らないストレートな強さというのが、ぜひ見習いたいなと感じた部分です。私も溝端さんも、合津さんも、わりと思ったことを素直に言うタイプで、それは少ない人数でのモノづくりには絶対に必要なことだと思うので、「いいものを作りたい」という思いが一緒であれば、多少ぶつかるかもしれないですけど、いい現場になると思います。共に苦労する楽しみを味わいたいです。

―最後にメッセージを

脚本を読み終わったときに、濃いため息が出たんですよね。舞台を観てくださったお客さんにも、この濃いため息をついていただきたいです。濃厚な世界に浸って、作品が終わったときに、現実に戻ったときの“めまい”を感じていただきたい。この作品に関しては、一人で余韻に浸っていただきたいですね。一人でおいしい食事やお酒を楽しみながら、じっくりと私たちの舞台を思い返していただきたいです。

―ありがとうございました

20180521-01_sub03ミムラ
1984年6月15日、埼玉県出身。
2003年、ドラマ「ビギナー」で女優デビュー。2011年のNHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」や、2012年の連続テレビ小説「梅ちゃん先生」、現在放送中の大河ドラマ「西郷どん」、映画『わが母の記』『彼らが本気で編むときは、』など、ドラマや映画、執筆活動などで幅広く活躍。また、近年では舞台でも活躍する。2011年のドラマ「おまえなしでは生きていけない~猫を愛した芸術家の物語~」、2016年のドラマ「トットてれび」で向田邦子役を演じた。2018年3月、「美村里江」に改名を発表。本作品がミムラとしての最後の作品となる。

ABOUT
舅(しゅうと)、夫、幼い2人の子供たちに捧げた13年、やっと前妻の気配を消したと思った矢先、朋子(ミムラ)は家族の裏切りを知る。「母さんは家を出たほうがいい」――長男・杉男(溝端淳平)は言った。母でなくなった朋子。息子でなくなった杉男。3年後、2人は再会する――。
配給:主催:テレビマンユニオン
公開日:5月29日(火)~6月5日(火)、東京芸術劇場シアターウエストにて上演