
取材・文=志村昌美、写真=坂本康太郎
―まずは完成した作品をご覧になったときの感想から教えてください
自分が伝えたかったものが観た方にちゃんと伝わるのかなという不安があって、観る前はずっと緊張していました。でも、今回は加代に共感する部分が多かったので、役作りなどで苦労することはあまりなかったです。
―初めての主演ということに対する不安はなかったですか?
台本を読んで、ここまで2時間出ずっぱりということがなかったので、緊張はしていました。でも、不安というよりも、初めて同世代の子たちと一緒にお芝居ができる、という楽しみの方が大きかったですね。あとは、現場に行くまではあまり実感がなかったというのもあり・・・始まってから初めて「私たちが中心で作っていくんだな」って感じた気がします。
―キャスティングに関して、面談した監督が会った瞬間に即決したそうですが、それを聞いたときはいかがですか?
うれしかったです。最初は私の趣味のことについてゆったりと話をして、そのあとに台本を読みました。もともと加代と自分が近かったので、あまり意識せずにできたと思います。
―どのあたりが自分と似ていると思いましたか?
はじめの頃の加代は、人と関わりたい気持ちはあるけれど、積極的に話しかけられなかったり、思っていることを顔や言葉に出さなかったりしますよね。私も思っていることをそのまま人に言ったりはしないので、そこは似ているのかなと思います。感情を出すのが苦手というわけではないんですけど、自分で勝手に完結しちゃうところがあるので。
―そんな加代を実際に演じてみていかがでしたか?
脚本や原作を読んでいたときから、「この役は私がやりたい」と思っていましたし、どんどん成長して変わろうとがんばっているところは演じていても気持ちがよかったです。あとは、スタッフ、共演者のみなさんが面白い人たちばっかりでしたし、沼津の地元の方がすごく話しかけてくださったので、ずっと楽しく過ごすことができました。
―演じる上で難しいところはなかったですか?
やっぱり一番大変だったのは、ギターです。私も音楽は好きなので、加代の音楽好きの部分は一緒でしたけど、ギターは弾いたことがなかったので、そこは苦戦しました。カラオケにはよく行くので歌うのは好きですし、音楽を聞くのも好きですが、演奏というのは初挑戦でした。
―初めてギターを手にしたときは?
今回は4カ月くらい練習しましたが、初めてギターを持ったときは、指は痛いし、コードがうまく抑えられなかったりしたので、できるかなととにかく不安でした。あとはコードを覚えたり、指を早く動かしたりするのも大変でしたね。
―歌も、上手く歌うより、音痴に歌う方が難しかったのではないですか?
それも難しかったですね。でも、最後の「魔法」という曲は、気持ちを伝えようという歌い方をしていたら、本当に音痴になっちゃったんです(笑)。そのほか、ザ・ブルーハーツさんの「青空」とかミッシェル・ガン・エレファントさんの「世界の終わり」はもともと生まれる前の歌であまり知らなかったので、あえてちゃんと覚えないようにしたりもしていました。
―撮影が終わった今もギター続けているそうですね
弾けるようになったらすごく楽しくて、いまは趣味として続けています。最近は、米津玄師さんの「Lemon」がお気に入りです。でも、やっぱり思い出の曲は、一番練習した「青空」ですね。
―役作りに関しては、監督からはどのような演出がありましたか?
役に関して言われることはなかったですが、志乃との距離感や掛け合いについては、言葉を大切にしながら、志乃ががんばって話している姿をちゃんと待ってあげてほしいということを言われました。なので、共演した南(沙良)さんとのやりとりを一番大事に心がけていましたね。
―志乃役のオーディションには蒔田さんも立ち会ったそうですが、どのような感じで行われたのですか?
そのときは何人かの方とお芝居しましたが、南さんとはすごくテンポが合って、本当の志乃と加代みたいだなと感じました。あとは、最後に志乃が自分の名前をがんばって言うシーンがありますが、南さんの演技に圧倒されて。オーディションなのに鳥肌が立つほどすごかったです。
―現場での南さんはどんな方でしたか?
ひたすら明るい子でずっと笑っていました。でも、シリアスなシーンになるとカメラが回っていなくても自分の中に入って話さなくなるので、そういうところもすごいなと思いました。
―撮影の合間で印象に残っていることはありますか?
本番の前に私がギターの確認をしていると、南さんが歌い始めてくれたり、クラスメイトで菊地役の萩原(利久)くんもノリノリになってくれたりしたので、本当に劇中のバンド練習みたいで楽しかったです。
―撮影時は中学生。現在、高校生になって心境の変化はありますか?
高校生になってから、仕事に対する気持ちが変わりました。それまでは中学生だったので撮影も20時までとか、学校の方が最優先という感じでしたけど、いまは仕事ができる時間も増えましたし、より真剣に取り組めるようにはなったかなと思います。
―子役のときからお仕事されていますが、最初に女優を目指したきっかけは?
もともとは兄が先にこの世界に入っていて。テレビに映っている兄の姿を見て、かっこいいなって。その後、10歳で是枝裕和監督演出のドラマ「ゴーイング マイ ホーム」に出演したときに、「女優としてやっていきたい」と強く感じたんです。現場にいる役者のみなさんが自分の役に真剣に向き合っている姿を間近で見ていて、私もこうなりたいなと思いました。
―今後はどんな女優になりたいと思っていますか?
もっと役や作品の幅を広げて、どんな役でも柔軟に演じることができる役者になりたいと思っています。特に、もっと闇が広がっているような世界観の映画にも参加してみたいですね。
―最後に作品を楽しみにしている方に向けてメッセージをお願いします
何か目指しているものがある人や目指しているけど諦めかけている人が、志乃と加代と菊池の3人が変わろうとがんばって成長していく姿を見ることで、少しでも勇気を持っていただけたらいいなと思います。
―ありがとうございました
蒔田彩珠(まきた・あじゅ)
2002年8月7日、神奈川県出身。
子役からキャリアをスタートさせたのち、2012年に是枝裕和監督が手掛けたドラマ「ゴーイング マイ ホーム」に出演し、高く評価される。その後、同じく是枝監督の映画『三度目の殺人』に抜擢。主演を務めた福山雅治の娘役を演じて注目を集める。また、「重版出来!」や「みをつくし料理帖」「anone」といった話題のドラマをはじめ、積水ハウスなどのCMでも幅広く活躍中。