「自分の高校時代を思い出したときに流れるスロー映像のような感じ」/『高崎グラフィティ。』佐藤玲インタビュー

次代を担うクリエイターの発掘・育成を目指して創設された、まだ制作されていない映画の断片だけを撮影し、その面白さを競う「未完成映画予告編大賞 MI-CAN」の第一回グランプリ『高崎グラフィティ。』が公開された。さまざまな地域への感謝の気持ちを示すため、「作品の舞台となる地域名をタイトルにすること」が条件で、本作はオール高崎ロケを敢行。ヒロインを演じるのは、川島直人監督と大学時代の同期生で、「MI-CAN」応募時の予告編から本作に参加している佐藤玲だ。撮影の様子を振り返ってもらった。

写真=三橋優美子

―予告編からスタートしている企画。予告編から出演されていますが、その当時はどのような撮影の流れだったんですか?

そのときは台本のようなものはなくて、登場する5人の人物がどのような考えを持った人物なのかという簡単な設定があって、シーンごとに細かいことを決めながら撮影していました。気心の知れた仲間同士だったので、ちょっと難しいけど一緒にがんばろう、と励まし合いながら撮影しました。

―そのときの設定とはどのようなものだったのですか?

美紀については、地元から出たいという思いを持っている、勉強のために東京に行く、というくらいのものでした。何の勉強をするために東京に行くのかは決まっていなかったんです。

―それが今回でより具体性を帯びたわけですね。脚本を読んだ時はどう感じましたか?

日藝(日本大学藝術学部)の先輩でもある小山(正太)さんに書いていただいて、すごく楽しみにしていました。予告編の撮影のときにはなかった会話を読んだだけでも、「5人はこういうふうに会話するんだ」という発見がありましたし、実際に撮影が始まると、脚本に書かれたその人物の言い回しなどが指針となって、自由に会話することもありました。台本のおかげでキャラクターが成長していきました。

―役作りそのものも、あまりなかったのですか?

準備稿の段階でもまだ詳細な設定はなく、当て書きというわけでもないので、実際にほかの役者さんと事前に話をしていく過程で、監督がどんどんと意見を取り入れていくという工程を経てキャラクターが作られていきました。ちょっと不思議な背景かもしれないですね。

20180827-01_sub01―実際に撮影してみていかがでしたか?

お互いにどんな人物なのか、深くは知らない間柄からどんどん仲良くなっていく過程が、実際の私たち出演者の関係性と、登場人物同士の関係性とでリンクしていました。過ごす時間が長くなるごとに、自然にセリフが出てくるようになりましたね。役なのか自分なのかわからなくなるくらい役に溶け込んでいって、撮影が進むにつれて、1回目のテイクでOK、ということが多くなっていきました。

―それは監督の演出のおかげもあったのでしょうか

リハーサルでは、まずは台本に沿って演技をしていくんですが、回を重ねるごとに砕けていくというか、自然とアドリブが出てきて、それにまわりも反応できるようになっていったのだと思います。セリフがない人たちも自然と言葉が口をついて出てくるような。それは、監督が意識して出演者同士が仲良くなれる環境を作ってくれたからだと思いますし、映画のカメラで撮影しているというより、ホームビデオを撮っているような感覚になるように導いてくれたのだと思います。

―まさに5人の青春の1ページを覗き見ている感覚ですね

そういう意味で、セリフのテンポやリズムが映画として心地いいかというと、そうではないと思うんです。ダラっとしてたり、体感として長く感じるところもあるというか。ある日、昔のアルバムを読んで思い浮かぶ思い出の映像とか、昔のホームビデオを仲間と観るときのような感覚が近いのかもしれません。ゆったりと自分の高校時代を思い出したときに流れるスロー映像のような感じですかね。

20180827-01_sub02―一番好きなシーンはどこですか?

5人が美紀の部屋で朝食を食べるシーンですね。みんな好き放題やっていたのですごく楽しかったです。私だけ置いて行かれて「あぁ・・・」となっている感じが、美紀とほかの4人の間に温度差がある感じとちょうどリンクしていました(笑)。三河(悠冴)くんがムードメーカーだったんですが、三河くんに話を振るとみんなクスッとなる、そんな関係でした。

―すべて高崎で撮影が行われました

家の中も含めて、すべてが高崎で撮られています。たとえば、スタッフさんのご実家だったり、知り合いのつてをたどって撮影させていただいた場所もありました。「撮影でお邪魔している」という感覚がすぐになくなって、自然体で撮ることができたという感じです。新幹線も通ってますし、でもいかにも観光地という感じではなく、すごく気楽に立ち寄れる素敵な場所です。

―最後にメッセージをお願いします

人生を振り返ったときに、ふとした一歩が、あとになって実は大きな一歩だったんだって気付くことがあると思います。本作で描かれている、ある5人が過ごしたたった2日間の、でもすごく濃密な時間が、まさにその瞬間だと思います。自分と照らし合わせる目線だったり、親として見守る目線だったり、支えるまわりの人たちの目線だったり、いろいろな立場から共感できる作品だと思いますので、ぜひ劇場に足を運んでください。

―ありがとうございました

20180827-01_sub03佐藤玲(さとう・りょう)
1992年7月10日、東京都出身。
2012年、蜷川幸雄演出の舞台「日の浦姫物語」で女優デビュー。2014年、映画デビュー作『おばけ』で初主演し、MOOSIC LAB2014女優賞を受賞。2015年の映画『色あせてカラフル』で主演を務めたほか、映画『少女』『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』などに出演。10月26日に映画『栞』が公開。来年、映画『それでも、僕は夢を見る』が公開。

ABOUT
高崎の街で暮らし、高校の卒業式を迎えた吉川美紀(佐藤玲)は、上京して服飾の専門学校でファッションの勉強をすることになっていた。幼なじみの大塚寛子(岡野真也)は、バイト先の店長である彼氏との結婚生活を夢見ている。そんな中、美紀の父・正晴(渋川清彦)が専門学校の入学金を持ったまま姿を消してしまう。卒業パーティーで仲良しグループの友人に悩みを打ち明けるが、真剣に取り合ってもらえない美紀。それぞれにわだかまりを抱えていた美紀たちのグループに亀裂が生じ、それを引き金に口論が勃発してしまう。
配給:エレファントハウス
公開日:全国順次公開中
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