「過去に向き合う時間は大切だって気付かせてくれる映画」/『母さんがどんなに僕を嫌いでも』森崎ウィンインタビュー

漫画家でエッセイストの歌川たいじが、自身の経験を基に綴ったコミックエッセイを映画化した『母さんがどんなに僕を嫌いでも』が公開中。本作で、主人公タイジ(太賀)の友人キミツを演じるのは、今年4月に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』でハリウッドデビューを果たした森崎ウィンだ。タイジの人生にどんどん踏み込んでくる、毒舌ながらも愛情と愛きょうのあるキミツを、自身のキャラクターも生かしながら魅力的に演じた森崎に話を聞いた。

写真=三橋優美子

―キミツはインパクトのあるキャラクターですね

口が悪いですけど愛があるんですよね。それって本当に相手を想っていないとできないと思うんです。それがキミツのすごいところであり、パンチの効いたところでもあるんじゃないかなって。あとワードセンスがすごい(笑)。原作を読んだときから、「そんなこと言う?」という。「庶民が口答えするな」って(笑)。すごい魅力的な人ですよね。

―原作のモデルになった方とは会われていないんですね

そうなんです。逆に、撮影前にご本人とお会いしなかったというのも、自分の中でイメージを固め過ぎなくてよかったと思います。演じる上で、かけ離れてはいるんですけど、イメージとして持っていたのは、『バットマン』シリーズのジョーカー。「何するかわからない」というか、次に何してくれるんだろうという期待感みたいなのは、モデルというより、目指すイメージとして頭にありました。

―現場ではどのように演じていましたか?

監督からは、台本という軸がしっかりある中で、キミツとしてどれだけ遊べるかを求められました。“自分の庭”があって、そこから飛び出すけどリードはきちんと付いている・・・という感じ。現場では頭がフル回転でしたし、すごくそれが勉強になりました。監督は「キミツ、何してくれるの?」みたいな空気感があって(笑)。自分の中に新しい水を与えていただけたようで、いい刺激になりました。

20181119-01_sub01―アカペラミュージカルの「歌喜劇」にも挑戦されました

一緒に歌って踊って支えてくださった方たちもプロの方で、しかも、書いていただいた曲もすごくいい歌だったので、前もって練習はしましたけどすんなり習得できましたね。僕の得意分野でもありますし、存分に演じられたかなって思います。

―完成した作品をご覧になっていかがでしたか?

自分も同じ経験をしているわけではないので、「わかるわかる」という共感ではなく、俯瞰で物語を見たときに気付かされることがいっぱいありました。「あ、こういうところ、僕はないがしろにしてたな」みたいな。誰にでも振り返りたくない過去ってあって、でもそれに向き合う時間は絶対に必要だと思うし、それに気付かせてくれる映画だと思います。あと、キミツを演じる自分としては、もっといろいろできたんじゃないかなって反省はありました。どんな作品でも思うんですけど。

―印象に残っているシーンはどこですか?

タイジ(太賀)が童謡の「ぞうさん」を歌うシーンですね。ちょうど自分は別室に控えていて、そのシーンの撮影をリアルタイムに見ていたんですが、そこで泣いちゃって。あのシーンが一番印象に残ってますね。あと、タイジが高校生になって母親と感情をぶつけ合うシーンでの、母親を見上げる目線というか、演技がすごくて・・・あそこの太賀が最高なんですよ。

―太賀さんとは十年来の友人ながら、今回が初共演なんですよね

太賀とは昔からずっと一緒に稽古とかやってきて、すごく信頼感があったので、壁なくスッと役に入っていけましたし、なにより共演できたことが一番の喜びですね。作品の中では、大将(白石隼也)とカナちゃん(秋月三佳)とキミツとが、タイジを挟んで彼を支えているんですけど、実生活でそういう人たちに出会えることが奇跡みたいなことで。人に与えてもらえるってことがすごく大事なんだなって改めて思いました。

20181119-01_sub02―ご自身の活動として、PrizmaXも新体制で始動しました

そうですね、12月に新しいコンセプトのライブがありますし、2019年に向けても・・・。今年は本当にいろいろなことがあって、散らばったピースを集めてパズルを作り直しているところという感じです。2018年は、本当に「アウトプットの年」でしたね。がんばってきたものをブワーって出してきた時期だったなって。『レディ・プレイヤー1』も公開されましたし、未知だった世界に広がっていったなって思います。本当にありがたいことですけど、またスタートラインに立ったというか、これからが勝負の時期だと思います。

―これからの展開も楽しみですね

2019年もいろんなことが起こる予感がしてます。演技も、これから10年は絶対に続けたい。ようやく今年、本格的に自分の芝居を見ていただけるようになったと思うので、本当にここからがスタートだと思います。ホントに楽しみにしていてください。

―最後にメッセージをお願いします

この作品が、振り返らずに目を逸らしていたものに対して、向き合うことが大切なんだなって気付くきっかけになってほしいです。乗り越えるのか受け入れるのかは、人によってさまざまだと思いますし、たとえ実際に向き合うことができなかったとしても、その大切な瞬間を迎え入れてあげられたらいいな、と思っていただきたいです。

―ありがとうございました

20181119-01_sub03森崎ウィン(もりさき・うぃん)
1990年8月20日生まれ。
2008年、ダンスボーカルユニットPrizmaXに加入し歌手デビュー。音楽活動と並行してドラマや映画への出演を重ね、2014年、映画『シェリー』で映画初主演。2018年、スティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』でハリウッドデビュー。同年の主な出演作は、『マイ・カントリー マイ・ホーム』『クジラの島の忘れもの』など。12月15日(土)より、PrizmaXの新コンセプトのライブ「PrizmaX Nonstop」が開催。

ABOUT
タイジ(太賀)は幼い頃から美しい母・光子(吉田羊)のことが大好きだった。だが、家の中にいる光子はいつも情緒不安定で、タイジの行動にイラつき、容赦なく手を上げる母親だった。17歳になったタイジは、ある日、光子からひどい暴力を受けたことをきっかけに、家を出て一人で生きる決意をする。努力を重ね、一流企業に就職したタイジは、幼い頃の体験のせいでどこか卑屈で自分の殻に閉じこもった大人になっていた。しかし、かけがえのない友人たちの言葉に心を動かされ、再び母と向き合うことを決める。
配給:REGENTS
公開日:絶賛公開中
公式サイト:http://hahaboku-movie.jp/
(C)2018『母さんがどんなに僕を嫌いでも』製作委員会