「“平成最後の謎”だと思って観てください」/『ONLY SILVER FISH』松田凌インタビュー

人気舞台演出家の西田大輔が、2007年に上映した舞台「ONLY SILVER FISH」を再演し、舞台版の出演者が別キャラクターを演じるアナザーストーリーとして書き下ろした映画版『ONLY SILVER FISH ?WATER TANK OF MARY'S ROOM』が、11月24日に公開される。主演は、ドラマ「男水!」などで知られ、舞台版ではマシュー役を演じた松田凌。ある目的を持って洋館でのゲームに挑む“黒ネクタイの男”を演じた。舞台、ドラマ、映画と活躍の幅を広げ続ける、まさに旬な彼に話を聞いた。

写真=三橋優美子

―コンセプトはそのままに、舞台と同じキャストが別の役柄を演じた本作。難しさややりやすさはいかがでしたか?

舞台の稽古と並行して映画版の撮影をしました。舞台は、時間をかけて出演者同士が練り上げていくものですが、映画は、瞬発性というか、撮影しているシーンを追いながら作り上げていくもの。今回は、舞台の本番前ということで、出演者同士の関係性もまだ出来上がっていない状況で撮影をしたので、お互いに手札を切り合いながらの撮影、という感じでした。でも、だからこそ、この映画での「この人は本当はどう思っているかわからない」という緊張感が、演者の緊張感におのずから乗っかっていったと思います。その状況を作り上げてくださったのは、やはり監督でした。

―西田大輔監督の、映画初監督作。現場の様子はいかがでしたか?

スタッフのみなさんが、それぞれこだわりを持って作られていて、その情熱が出演者にも伝わって、どんどん質が高まっていきました。西田監督は、初めての映画ですが、監督の“色”は残っていて、演者はみんなそれがわかっていました。まさに、「西田大輔監督作品」という感じがすごく強いと思います。

―映像として完成した本編をご覧になっていかがでしたか?

素直に「もう一度観たい」と思いました。台本を読んで、実際に撮影しながら想像していた世界に、音楽や色の演出が乗ってそれが具現化されると、感無量というか、「また一つ作品がこの世に生まれたんだな」という実感がありました。その一部になれたという感激も。だから一番最初に観た時に感じた不思議な気持ちをまた感じたくて、もう一度観たいなと思ったのかもしれません。

―物語としても、いろんな立場から何度も観たくなる作品ですね

正解がないんですよね、この作品を観てどう思ったかっていうのは。この作品は特にそうだと思います。そういう意味で、観客に委ねている。だから、どう思っていただけるかっていうことには、期待と不安が交じり合っています。

20181122-01_sub01―舞台版をご覧になった方は、また違った捉え方ができるかもしれませんね

脳内をかき回されると思うんですよ、舞台の知識があると。「あのセリフはこういうことじゃないかな」とか、「あれって実はこうなんじゃないか」とか。登場人物にもちょっとずつ共通点もあるような気がしていますし。だから、すべてが伏線に思えてくる。拾わなくてもいいものを拾ってしまって、答えは実はもっとシンプルなのに、複雑に考えてしまう。でも、人ってそうですよね。何十通りも可能性を考えてしまうけど、答えは一つしかない。この映画でも、それにたどり着いてもらえるとうれしいです。

―「振り返る」というキーワードにも関連してきますね

そうですね。「結末」が複数あるってことですからね。スタッフロールのあとの余韻が好きで、そういう作品に出たいと思っていたので、「あ、監督やってくれたな」ってうれしかったですね(笑)。

―黒ネクタイの男を演じるにあたって気を付けたことはなんですか?

「使命感」と「責任感」の2つですね。ある目的があって命のやり取りをしている状況で、黒ネクタイの男には特に強い責任感があるんですよね。そこを強く意識したのと、なるべく“我慢する”というか、人間味を出さないというか。自分の行動原理も表情も読み取られたくない。演じる上ではリスクが高いんですけど、「何もしない」ということが、観る人の想像力をかき立てることになると思ったので、すごく我慢しました。

―撮影で印象に残っているエピソードを教えてください

ずっと洋館で撮影をしていたんですけど、唯一、外ロケのシーンがあるんです。その時は本当に幸せでしたね(笑)。ずっと暗い環境にいましたし、張り詰めた緊張感のあるシーンの連続でしたから、青空の下、海の波の音が聞こえる環境というのはうれしかったです。作品の流れの中でも特に明るいシーンなので印象に残りますし、一番、人間味を感じられるシーンかもしれないですね。ちょっと楽屋みたいな雰囲気があるくらい(笑)。僕はあのシーンが一番好きですね。

―人間味を感じさせるための監督の意図かもしれないですね

本当にそうですね。そのほかのシーンでも、「なんでここは長回しだったんだろう」とか、「どうしてここでカットを割ったんだろう」と思うことがあったんです。それも何か意図があることだと思うので、ぜひ観ていただく方にも考えていただきたいですね。そういう観方をしていただくとすごくうれしいです。

20181122-01_sub02―松田さんが今後、挑戦してみたいことを教えてください

あまりお仕事に垣根を感じていないので、今回は映画という表現方法をすごく楽しめたし、舞台でもドラマでも、演じることが楽しいです。“演じる”ということだけでなく、表現すること、たとえば絵を描くことでも、写真を撮ることでも、音楽でも、いろいろな手法に挑戦してみたい。でも、今回この映画に出させていただいて、映画というものの魅力にすごくとりつかれた自分がいるので、自分の演技の幅も広がっていくと思いますし、今は「もっと映画に出たいな」という意欲が高いです。

―演じてみたい役はありますか?

等身大の役かなぁ・・・、人間味があるというか。浮世離れした話や役柄もすごく楽しくて大好きなんですけど、「人間とは」というように根本を問うような作品があれば、その中に自分が飛び込めるとうれしいだろうな、と思います。役として何かを表現するお仕事をしている以上、人間としての内面を表に出すような作品にも挑戦してみたいと思いますね。お芝居をしているのかしていないのかわからないような。僕、命を落とすか奪うかの役が多くて(笑)。

―最後にメッセージをお願いします

とても難解な作品だと思います。“平成最後の謎”だと思って観てみてください。そして、その謎を解くことができた方は、ぜひ名乗り出てください(笑)。・・・というくらい、人生を通して考えるべき謎が提示されていて、それぞれがそれぞれの答えを見つけていただけると思いますので、ぜひ劇場に足を運んでください!

―ありがとうございました

20181122-01_sub03松田凌(まつだ・りょう)
1991年9月13日生まれ、兵庫県出身。
2012年、ミュージカル「薄桜鬼」の斎藤一篇で初舞台にして初主演を飾る。以後、同シリーズや「Messiahメサイア」シリーズ等、数々の舞台に出演して人気を博し、主演舞台の公演は毎回完売、6,000人~15,000人を動員する。?2013年、「仮面ライダー鎧武/ガイム」に城乃内秀保/仮面ライダーグリドン役で出演。2017年のドラマ「男水!」ではドラマ初主演を務める。主な映画出演作は、『メサイア-漆黒ノ章-』『ライチ☆光クラブ』など。現在、舞台「魔界転生」が公演中。2019年1月10日(木)から、舞台「トゥーランドット」が公演開始。

ヘアメイク=堀口有紀、スタイリスト=瓢子ちあき

ABOUT
とある洋館へと集められた男女。彼らの目的は“オンリーシルバーフィッシュ”という一匹の魚だった。その魚は、本当の名を呼ぶことで過去を振り返ることができると言われている。しかし、魚の本当の名前を知ることができるのはただ一人、招待状に則って行われるゲームの勝者だけだという。最初のゲームは、参加者が一斉に指をさして脱落者を一人決めるというものだった。ゲーム開始直前、黒ネクタイの男(松田凌)はユキ(皆本麻帆)が誰を指そうと考えているかを言い当て、“負けるはずだった”ユキを救う。その後も、彼女を脱落させないため、誰にも気付かれぬようヒントを与えていくが、徐々にゲームの歯車は狂い始め・・・。
配給:ベストブレーン
公開日:11月24日(土)より、シネリーブル池袋ほか全国順次ロードショー
(C)2018「ONLY SILVER FISH」製作委員会