
写真=松林満美
―瑠衣をどのように演じましたか
原作では、“腹黒”という部分を深堀りしたエピソードもあるんですけど、映画ではそれを前面に出してしまうわけにもいかないので、いい塩梅(あんばい)で出せるといいかな、とは監督と話していました。永久(北村匠海)の背中を押す恭介(磯村勇斗)がいて、自分自身が突っ走る竜二(杉野遥亮)がいて・・・立ち位置が難しいな、と思いました。瑠衣の持つ“かわいらしさ”の部分も、どう出していけばいいか最初は悩みました。これまで挑んだことのなかった役柄だったので苦戦しましたね。
―そのあたりもバスケ部のメンバーや監督と話をして決めていったのですか?
事前にバスケットの練習があったので、その時間にたくさん話ができたのがよかったです。撮影が始まってからも4人でいるシーンが多かったので、先々まで詰めて話すことができましたし、監督ともいい話ができました。軽妙さで仲間の背中を押す優しさとか、ただ“かわいい”を演じるだけでは出てこないような内面を出すことができれば、という思いで演じました。本作の物語を一番俯瞰で見ている人物かもしれませんね。
―バスケの練習はどれくらい?
2カ月くらいだったかな・・・。メインキャストが集まって練習を始めて、それからチームメイト役の方々が決まって合流して。撮影に入ってからも練習していました。みんなバスケの経験があったので基本的な動きはできますが、最近までやっていたわけではないので勘を取り戻さないといけなかったし、何より、決められた一連のプレーをすることが難しかったです。殺陣(たて)に近かったですね。ディフェンスするにも相手を単純に通すわけにはいかないから、本気で止めにいって抜かれる必要がある。自分がこの動きをすれば相手が動いてくれているはず、と信頼しながら、「ここで手を抜くなよ」というプレッシャーをかけ合うような撮影でした。
―チームメイトや観客など、大勢のエキストラの協力もありました
1試合につき1日・2日かかるような長い撮影でもありましたから、エキストラのみなさんには、なんとか楽しく撮影していただいて、「あの時の撮影、楽しかったな」って思い出していただけるといいなと思っていました。何日も本気のプレーが続いたので、終盤は体がボロボロでした。気力でプレーしていましたね。
―制服を着ての撮影はいかがでしたか?
詰襟でもブレザーでもないオリジナルな制服だったので、あまり「制服」を着ている感じはなかったですけど、学生時代の空気を肌で感じて、それが自分の内側からも感じられたので、「やっぱり学生生活は楽しいものだな」と思いました。男同士でバカ話ができるのも楽しかったです。屋上や体育館での撮影が多かったので、あまり「学生生活」を楽しめるものではなかったんですが、その分、バスケに打ち込める環境だったのもよかったです。
―バスケ部の4人は、撮影以外でも同じ立ち位置で過ごしていたとか
撮影後に、「ラーメン食べよう」ってお店に入ってから、座って気付くという。「これ、撮影の時と同じ座り位置だな」って(笑)。1日に3回くらい同じようなことがあって、さすがに気持ち悪いよねって言っていたのを覚えています。そして、「こういうのネタになるから覚えておこうね」と言って、完成披露の舞台挨拶でネタにさせてもらいました(笑)。
―完成披露では、桜の花びらに書かれたメッセージも披露されました
嬉しいですね。人が作って、人が見てくれているというのを実感できるので。世の中がデジタルになっていく中で、お客さんの反応を肌で感じられるというのは嬉しいですし、時間とお金と心を使って応援してくれているんだ、楽しんでくれているんだ、ということがわかって本当にありがたいと思いました。
―稲葉さんは何と書かれたんですか?
「青春って最高だった。」と書きました。最高“だった”んですよ、絶対。そのときは、その世界の中で確実につらいことがあったし、しんどい思いをしていたのは間違いないんですが、過ぎ去った今となっては、それを含めて自分だと思うようになっているので、最高“だった”んですよね。
―作品の中で印象に残っているシーンはどこですか?
永久が美月を抱きしめるシーンとか、亜哉ちゃんが美月と2人で過ごすシーンとか、いわゆる“胸キュン”シーンなのかな、と思います。「俺たちが知らない間にお前らこんなことしてたんかい!」っていう。・・・まあ、台本読んでいるので知っているんですけど、改めて作品で見るとハッとしましたね。ハッとしてキュンとするもんなんだなと思いました(笑)。
―夜、部活帰りに仲間で連れだって歩くシーンも何度かありました
あれもいいシーンでしたね。やっていて楽しいシーンでした。「放課後」という、僕たちにはもう訪れない素敵な時間(笑)。仕事帰りでもなければ遊び帰りでもない、学校から帰ってくる時間・・・こういう仕事をしていると特になんですけど、明日も会うことが当たり前として一緒に帰る時間って、あまりないと思うんですよ。それを、撮影していたみんなと共有できたので、愛おしい時間でしたね。「放課後っていいなぁ」って思いました。
―稲葉さんは、年末にも主演ドラマがありますね
「平成ばしる」というドラマに出させていただきます。松居(大悟)監督とは、以前『ワンダフルワールドエンド』やMVでご一緒していて、すごく仲良くしていただいているんですが、また“松居組”でお仕事ができるのが嬉しいし、テレビ朝日やJ-WAVEなど、ゆかりの深い場所や出演者の方が出てくるので、それに主演させていただけるのがとても感慨深いです。自分のキャリアの半分くらいが詰め込まれている気がして、世界ってつながっているものだなぁと思いました。
―六本木を中心に、実在のテレビ局やラジオ局、インターネットテレビ局の番組や出演者が登場するユニークな内容ですね
ハートフルだしドタバタだし、年末に見るのにすごく適したドラマになっていると思います。どの体調で見ても大丈夫(笑)。1時間なのでさっくり見ちゃってください。2018年どころか、これまでの僕を総括するようなドラマです。
―最後に、改めて『春待つ僕ら』を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします
観た人の背中を押してくれる映画だと思います。青春真っただ中の方も、過ぎ去った方も、どこかで何かが琴線に触れるはず。心の中にある青春を引き出してもらえるはずです。大事な人の顔が思い浮かんで、春が待ち遠しくなるような映画だと思いますので、ぜひ劇場に足を運んでください。
―ありがとうございました
稲葉友(いなば・ゆう)
1993年1月12日、神奈川県出身。
2010年、テレビドラマ「クローン ベイビー」で俳優デビューを果たし、2011年、舞台「真田十勇士~ボクらが守りたかったもの~」で初主演。2018年に『N.Y.マックスマン』で映画初主演を務め、『私の人生なのに』などに出演。J-WAVE「ALL GOOD FRIDAY」(毎週金曜11:30~16:00生放送)でナビゲーターを務める。12月15日から『小河ドラマ 龍馬がくる』が劇場公開。2019年1月11日より映画『この道』が公開予定。12月28日には、民放ドラマ初主演となる年の瀬ドラマ「平成ばしる」(テレビ朝日)が深夜0:20から放送される。