
取材・文=幸谷亮、写真=松林満美
―本作が日本で公開されることへの感想を教えてください
まさに、ドリームズカムトゥルー! そもそもこの映画は韓国人だけで作り上げた作品ではありません。韓国人キャストとほぼ同数の日本人キャストが出演しています。韓国人の“朴烈”と日本人の“金子文子”が国境を越えて同志として立ち向かい、愛し合ったストーリーなので日本の方々にもぜひご覧になっていただきたいと思っていました。韓国で公開された時も喜びでいっぱいでしたが、日本でも公開されるということで、とても感激しています。
―ストーリーはもちろんですが、流ちょうな日本語がとても印象的でした
小学生のころに5年ほど大阪に住んでいたことがあるんです。そういった経験もあって日本語を話せるんですが、感情的になったりするとついつい大阪弁になってしまうことがあって(笑)。叫んだり怒ったりするシーンなどで「イントネーションが大阪弁っぽい」と指摘されることがあったので、標準語になるように練習を繰り返しました。
―日本でお気に入りのスポットはどこですか?
先日、年末の休みを利用して東京と横浜に6日ほど滞在しました。おいしい料理を食べられるお店や、ショッピングができるお店がたくさんあるので、東京には何度も来てるんです。なかでも私のお気に入りは東京の下北沢。まわりからは意外だと言われることも多いんですが、アーティストが多くて自由な雰囲気がソウルのホンデ(弘大)と似てるんです。かわいいショップも多いので、下北沢にはよく行きますよ。
―実際に演じてみて、金子文子とはどういう女性ですか?
とても主体的で素晴らしい女性だと感じました。平等主義や女性の権利について異を唱え、社会を変えるため、そして愛と誇りのために強大な国家に立ち向かう。それを亡くなる直前に手記として書き下ろすなど、当時の日本や韓国には彼女のような「フェミニスト」は存在しなかったんじゃないでしょうか。今でも心のどこかに彼女の存在が残っているほど、文子の人間性には影響を受けました。
―文子とチェさんに共通する部分はありますか?
私も文子と同じで自己主張が強いタイプ。両親は私が役者になることをポジティブに思っていなかったんですが、それでも10年間ずっと役者としての活動を続けてきました。文子の場合は、父親からも母親からも愛されなかった一方で、私は両親からたくさんの愛を受けて育ってきました。そういった点で違いはありますが、自分の意思で生きる道を選ぶなど、根底にあるものは文子と変わらないって思ったんです。だからこそ強く惹かれ、影響を受けたんだと思います。
―そんな文子を演じる上で心掛けた点はありますか?
居酒屋で働く文子が酔っ払いに暴言を吐かれ、それに立ち向かうシーンがあるんです。そういうシーンでは、文子のまっすぐで強い部分を表現したかった。でも、そういった一面だけではないのが彼女を演じる上で難しいところなんです。一見すると、彼女はタフな女性に映りがちなんですが、手記を読むと、じつは明るくて無邪気な一面もあったはず。とはいえ、イ(ジュンイク)監督からは、「ただ明るくて無邪気なだけでなく、笑顔の奥にある“暗い過去”も表現してほしい」と言われました。いろいろな表情があるキャラクターを演じられるよう、練習の時はいろいろなバリエーションで試しました。
―印象に残っているシーンはどこですか?
どのシーンもそうなんですが、なかでも文子と朴烈が着物を着て写真を撮る場面はとてもロマンティックで印象に残っていますね。物語の内容としてはどうしても歴史映画と捉えられがちですが、じつはラブストーリーの要素も多く含んでいる作品です。このシーンはとくに2人の愛に満ち溢れたシーンが表現されているので、改めて見ても「素敵なシーンだな」って思いました。
―どういうところに注目して見てほしいですか
文子の手記や実際の裁判記録から採用したセリフが多く、愛と誇りのために強大な国家に立ち向かった当時の2人の闘いが忠実に再現されている作品です。ただ、勘違いしてほしくないのは、日本という国そのものに立ち向かったわけではなく、社会組織に対して反抗したということ。いまだ知られていない彼らの活動を紹介する映画でもあるので、当時、どんな人が、どのような思いで、どのように立ち向かったかというところにも注目して見ていただければ嬉しいですね。
―最後に、ファンにメッセージをお願いします
日韓の歴史を韓国目線で描いた作品なので、日本の方々にとってはネガティブな先入観がある方もいらっしゃるかもしれません。でも、実際はそういう内容ではなく、日韓の理想的な関係を描こうとした作品です。しかも、主人公の2人が国境を越えて同志として人生をまっとうした。そういった部分にも注目して見ていただければと思います。
―ありがとうございました
チェ・ヒソ
1987年1月7日生まれ、韓国・ソウル出身。
2009年に公開された映画『キングコングを持ち上げる』で本格的に女優デビュー。2016年には映画『ドンジュ』で流ちょうな日本語を披露すると、その演技力の高さとも相まって一躍注目を浴びる。『金子文子と朴烈』では、第54回大鐘(テジョン)賞映画祭で“新人女優賞”と“女優主演賞”の2冠を達成した。