
写真=松林満美
―本作の撮影を振り返って、いかがでしたか?
ドキュメンタリー部分も劇映画部分も、そのままの自分で撮影できたと思います。まったく別の役を演じるより自然でいられました。遠藤(新菜)さんとも撮影の日に初めてお会いして、とても素敵な方で、ずっとおしゃべりしていました。みんな、演じているようで演じていない、そういう現場の雰囲気を監督が作ってくださっていたと思います。
―監督からお話を受けた時はどのような印象でしたか?
監督から初めてご連絡いただいたのが4年くらい前で、「東京で生きる女性のオムニバスのドキュメンタリーを撮りたい」とおっしゃっていたんです。ずっと、「どうして私に声をかけてくださったんだろう」と思っていたんですが、本作の撮影を経て、完成した作品を観て初めて「なるほど」と思いました。当時、自分では気付かなかったんですが、4年前の自分は本当に重たい何かを抱えて悩んでいて、生きづらそうにしていたんですね。監督は、そんな私をひょいって拾ってくれたんだと思います。今の自分は、当時抱えていたものとはお別れできたのかなと思いますが、作品からは本当にそれがにじみ出ていました。
―たくさんの人のさまざまな意見が出てきますが、共感できるところはありますか?
あまり「共感」することはないんですが、「理解」はできますね。そういう意見もあるよね、そういう生き方もあるよね、と認められる部分が多かったです。そういう意見に触れる機会って本当に貴重ですし、ご覧になる方も、共感できる意見もあれば、違う意見として新しい発見があるかもしれません。
―モノクロで表現された世界観はいかがですか?
映像のこと、特に手法についてはあまりわからないので、監督ともそういった話はあまりしませんでした。だから、「どうしてモノクロなのかな」とぼんやり思っていたのですが、実際に完成した作品を見て、モノクロであることで、どこが劇映画でどこがドキュメンタリーなのかわからなくなる瞬間があって面白かったです。自分が映っていても、「これは演技だっけ?」と思ったり、当時の自分がなんだか自分じゃないように映りました。まるで“娘”を見ているような(笑)。
―印象に残ったシーンはどこですか?
BOMIさんが幸せについて語るところです。「幸せの感度」という考え方はすごくよくわかります。でも、当時の自分だったらわからない。今の自分だからわかるのかもしれません。今は幸せの感度が高まっているから、ちょっとしたことでも幸せに感じることができるのだろうな、と思います。こういった意見に出会えるのも、幸せなことですよね。
―この作品を観た人に、どのように感じてほしいですか?
「私は私、あなたはあなた」っていう認識は、できているようで実はできていなくて、人と自分を比べてしまったりしていると思うんです。認め合うとまでいかなくても、「そういう人もいるんだね」って思えるようになると、生きやすさってだいぶ変わるんじゃないかって思っていて。この作品を観終わった時に、言葉にできなくても、あったかいものが生まれてくれると嬉しいですし、この作品を観ることによって、自分自身の考え方に目を向けるきっかけになってもらえるといいなと思います。
―今後、挑戦してみたいことは何ですか?
写真を本格的に撮っていきたいです。まだ作品も発表していないですし、まだまだこれからなんですけど、今年中や来年の早くには個展もしてみたいなと思っています。日々の生活を大切にしたいという気持ちがあるので、そういうものを表現していけたらいいなと思います。捉えた人が何年後かに見た時に、あったかい気持ちになれるような作品が撮りたいです。
―最後に、メッセージをお願いします
この映画は、テーマ的に観る人が限られるようなイメージがあるかもしれないんですが、そんなことなくて、今生きている人みんなに見てもらいたいです。みんな絶対、幸せについて不安を抱えていたり悩んでいたりすると思うし、今はそうじゃなくてもいつかそうなるかもしれない。現代を生きる人すべてに観ていただきたいですし、観て、何かあったかいものを感じていただきたいです。
―ありがとうございました
兎丸愛美(うさまる・まなみ)
1992年4月16日生まれ。
2014年からヌードモデルとして活動を開始。2016年からは舞台「幽霊」や映画『三つの朝』などに出演。『三つの朝』では、第4回富士・湖畔の映画祭2018短編コンペ部門で主演俳優賞を受賞。2017年に自身初の写真集「きっとぜんぶ大丈夫になる」が発売。同年発売のサニーデイ・サービスのシングル「クリスマス」のジャケット写真でカメラマンデビューも果たした。