「絶妙なバランスで作られた世界観」/『架空OL日記』バカリズム&夏帆&佐藤玲インタビュー

バカリズムが2006年から3年間にわたり、銀行に勤めるOLになりきって日々のあれこれをこっそりと綴っていたブログを書籍化した「架空OL日記」が、連続ドラマに引き続き、映画版となって2月28日(金)から公開される。銀行で働く彼女たちの日常が、淡々とユーモラスに、時に辛辣(らつ)になんとも言えない絶妙な空気感で描かれる。脚本と主演を務めるバカリズムと、メインキャストの夏帆、佐藤玲に映画化が決まった時の心境などを聞いた。

写真=三橋優美子 取材・文=幸谷亮

─映画化が決定した時の心境から教えてください

夏帆 ドラマの撮影の時から、みんなで「続編ができたらいいね」って話をしてたんです。なので、それが実現する喜びもありつつ、「まさか映画化とは」っていう驚きもありつつ。

バカリズム 両方ありますよね(笑)。

夏帆 私自身もこの作品を大きなスクリーンで見てみたいなって思いがあったので、純粋に楽しみでした。

バカリズム あの作品を大きいスクリーンに映して、それを多くの人が見ているっていうその現象が狂気ですよね。でも、作品のきっかけとなったブログ自体がクレイジーじゃないですか(笑)。そういったクレイジーな感じは引き継げたかなって思います。

佐藤玲(以下、佐藤) 不思議な感覚でした。でも、どういうストーリーになるんだろうって。楽しみな部分が大きかったですね。

─どのタイミングで映画化が決定したんですか?

バカリズム じわ~っと決まった感じです。住田(崇)監督も映画化させたい気持ちが強かったみたいで、ドラマ版の撮影中から「映画はどうですか?」って話をいただいてたんです。出演者側もみんな映画化を望んでいたので、どのタイミングというよりは、ちょっとずつ周りを巻き込む形でじわじわ決定した感じですね。

─脚本を読んだ時の感想を教えてください

夏帆 坂井(真紀)さんなど新しいキャストが登場したり、ドラマ版とは変わった面ももちろんあるんですが、本当にいい意味で変わらないなって。「あ、帰ってきたな」「ただいま」って思いました。

佐藤 純粋におもしろかったです。2年ぶりの再会でちょっとしたドキドキはありましたが、「これをまたみんなでやれるんだ」って考えたら嬉しかったですね。

─ドラマ版とは大きく脚本を変えなかった狙いなどはありますか?

バカリズム 当然そうだよねって。賞をいただくなど評価してもらった部分でもあるので、そこをあえて崩す必要はない。周りから「映画っぽさを取り入れたほうがいいんじゃないか」みたいな声もあったんですが、この作品においてそれは当てはまらないなと。「ドラマ版となんの代わり映えもしないじゃん」って言われても、間違っているのはそれを言ったほうですからね。この作品においての正解は絶対的に僕だっていう自信があるので、結果どういう評価になろうと、変えずにやるのが正解だと思っていました。

夏帆 たしかに、ドラマ版と大きく変わってたらショックでしたね。ただ、ドラマ版の撮影中、「続編ができたら、次はOLじゃなくて架空◯◯日記だろう」って話もしてたんですよ(笑)。

バカリズム 受付嬢とかね。あとなんだろうな。

佐藤 CAさんとかも出ましたよね。

バカリズム いろいろあったんですが、でもやっぱり銀行員が一番しっくりくるっていうか。それを超える職業がなくて。やっぱりOLだなって。

─バカリズムさんが周りのOLとなじみすぎているところが印象的でした。夏帆さんと佐藤さんにとって、バカリズムさんはどういう存在として捉えてるんですか?

夏帆 特に違和感があるわけでもなく、ストーリー通り「同期」だと思ってます。カメラが回っていない時もみんなで一緒にいることが多かったんですが、劇中の雰囲気となにも変わらないですよ。

バカリズム 僕もある程度イメージはしていたんですが、ここまでなじむとは思っていませんでした。

夏帆 この5人だから、升野さんだから成立しているのかもしれないですね。

バカリズム それはあるかもしれないです。

佐藤 逆にバカリズムさんは周りが4人女性でどういう感覚なんですか?

バカリズム 特に何も思わないですよ。脚本の段階で違和感を覚えさせないようにいろんなことを避けてますから。例えば、恋愛とかもそうで、男女が絡んでくる内容は盛り込まないようにしています。なので、誰かが引き継いで脚本を書いてしまうと問題が生じるというか。そういった点では、すごく繊細な作品になっていると思います。

夏帆 それはすごく感じますね。

バカリズム ブログから書籍化された時もそうですが、それまで関わったことのない人がいろんな提案をしてくれるんですよ。でも、脚本も含めて結構絶妙なバランスで世界観が作られてる作品なので、なんか違うというか。

─「女性あるある」がふんだんに詰まった作品ですが、特にどのシーンに共感しましたか?

夏帆 あまり共感っていうのは意識してないんですが、イヤホンがバッグの中で絡まってたり、リップを忘れたと思ったらバッグの中に入ってたり。普段気にしてなかったけど、「そういえば、自分の日常にもあるよな」っては思いました。

バカリズム OLさんじゃないからね。

佐藤 周りからも「女性あるあるが詰まってる」って言われたりするんですが、女性だけじゃないんですよね。

バカリズム そう、男性でも共感できるかなって。僕が演じる「私」がおっさんの汗を気にしながら朝の満員電車に乗っているシーンがあるんですが、おっさんの僕でもおっさんにくっつくの嫌ですからね(笑)。だから、男女どちら側の目線でも楽しめる作品なのかなって。

─最後に、作品を楽しみにしているファンにそれぞれメッセージをお願いします

バカリズム いい意味で期待を裏切らない作品に仕上がっています。みなさんがイメージする通りで、おそらくそれを超えることはないと思います。予想外のこともさほど起きませんし、日常からかけ離れることもありませんので、安心して劇場に足を運んでいただければと思います。

夏帆 私たちも映画版だからといって、何かを大きく変えたわけでもなければ、意気込んだわけでもありません。それがほかの作品にはないこの作品の良さだと思います。ドラマ版をご覧になっている方もなっていない方も楽しめる作品になってますので、ぜひ劇場で観ていただけならと思います。

佐藤 ドラマ版をご覧になっていただいている方は、おそらく全キャラクターを好きになってくれていると思っています。それを映画版でも引き続き楽しんでご覧になっていただければ嬉しいです。

─ありがとうございました

バカリズム(写真中央)
1975年11月28日生まれ。福岡県出身。
1995年「バカリズム」を結成。2005年12月よりピン芸人として活動。TVレギュラー番組を中心に活動するかたわら定期的に単独ライブも開催する。「架空OL日記」を始め多くの作品の脚本も手がける。代表作にはドラマ「素敵な選TAXI」「桜坂近辺物語」「かもしれない女優たち」「黒い十人の女」「住住」などがある。ほかにもナレーションや演技、イラスト、書籍など多方面で活動中。

夏帆(かほ/写真左)
1991年6月30日生まれ。東京都出身。
小学5年生の時にスカウトされ、2004年に女優デビュー。2007年に公開の初主演映画『天然コケッコー』で日本アカデミー賞や第32回報知映画賞最優秀新人賞などで数々の賞を受賞。2016年には映画『海街diary』で第39回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。現在公開中の映画『Red』に出演しているほか、映画『喜劇 愛妻物語』の公開が控える。

佐藤玲(さとう・りょう/写真右)
1992年7月10日生まれ。東京都出身。
2012年に舞台「日の浦姫物語」でデビューし、2014年には映画『おばけ』で初主演を務め、MOOSIC AWARDS 2014 女優賞を受賞。その後も映画『リュウグウノツカイ』『色あせてカラフル』『少女』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『高崎グラフィティ。』やドラマ「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」「八つ墓村」「江戸前の旬」など数々の作品に出演。

ABOUT
憂鬱な月曜日の朝。銀行員OLの“私”(バカリズム)の1週間が始まった。眠気に耐えながらもきっちりメイクして家を出る。ストレスフルな満員電車に揺られ、職場の最寄り駅で合流するのは社内で一番仲良しの同期・マキ(夏帆)。私と価値観の近いマキとの会話は、時に激しく不毛ながらも不思議に盛り上がる。会社の更衣室で後輩のサエ(佐藤玲)と入社8年目の小峰(臼田あさ美)、10年目の酒木(山田真歩)が加わり、いつものように就業前のおしゃべりに華が咲く・・・。
配給:ポニーキャニオン/読売テレビ
公開日:2月28日(金)より、全国ロードショー
公式サイト:https://www.kaku-ol.jp/
(C)2020「架空OL日記」製作委員会