
河瀨監督は、「明日起きたら、明後日起きたら、奈良にもう雅哉(永瀬正敏)も美佐子(水崎綾女)もいないのだと思うと、なんだか身を裂かれるような想いがするのです。それほど登場人物たちと一緒に生きていたな、という気がします」「クランクインが満月で、とても重要な雅哉と美佐子のシーンを撮った日が新月で、そして今日、クランクアップの日がまた満月。光もすべて味方につけた、俳優たちこそが、スペシャルだと思っています!」と、クランクアップを迎えた心境を明かした。
『あん』に続いて2度目のタッグとなる主演の永瀬は、“弱視のカメラマン・中森雅哉”という役に完全にのめり込み、目の焦点を合わせず演技を続けた。「魂よりももっと大きなものをフィルムに焼き付けられたらと思いながら日々過ごしていました。実際に目の不自由な方々の気持ちを考えたら、僕らの小さな悩みや絶望というのは、大したものではない…そんな風に世の中の観方がこの作品で変わるきっかけにもなったらと思っています。今はまだ客観視はとても出来ないですが、一人でも多くの方にこの河瀨監督が伝えようとしている『光』が届くことを願っています」と語った。
また、撮影前から奈良に住み始め、作品づくりに没頭する日々を過ごした、水崎綾女は、「役になりきるために、ものすごく苦しくて大変だったのですが、撮影が終わってしまうのが本当に寂しい」と明かし、「最初の1週間は台本がないまま演じていて、やがて1日分の台本を頂くようになり、10日前にようやく台本を1冊もらって読ませていただきました。もう、8割、9割のところまで進んでいて、『あと数ページしかない!』という状況でしたが、そこから作品のヤマが続き、ようやく2日前頃、(ゴールという)“光”が見えてきた感じがしました」と振り返り涙を浮かべた。
河瀨監督は、世界最高峰のカンヌ映画祭で新人監督賞カメラドールを受賞した1997年の『萌の朱雀』、その10年後の2007年に審査員特別大賞グランプリを受賞した『殯の森』に続き、“10年周期のジンクス”となる来年2017年に、オリジナル脚本である本作『光』を世に送り出す。