「現実離れしていない希望を提唱したかった」/「連続ドラマW パレートの誤算~ケースワーカー殺人事件」橋本愛インタビュー

現代日本をむしばむ病巣を容赦なくむき出しにする「連続ドラマW パレートの誤算~ケースワーカー殺人事件』」が3月7日からWOWOWで放送される。原作は、映画化された「孤狼の血」で日本アカデミー賞最多12部門を受賞した注目の作家・柚月裕子の作品。信頼する先輩の死をきっかけに福祉や市政、医療を取り巻く町の闇に立ち向かう市役所の新人嘱託職員・牧野聡美を、橋本愛が演じている。テーマに運命的なものを感じたという橋本にドラマへの思いを聞いた。

写真=三橋優美子

―注目の作家・柚月裕子の原作。お話があったときの感想は?

原作小説を読んだらすごく面白くて。生活保護については不勉強だったんですけど、実態を知りながらミステリーとして謎を追っていくというエンタメ感と、社会が抱えている課題に自然と向き合わされていて、多面的に楽しんでいる自分がいました。作品のテーマにも共鳴する部分があって運命的なものを感じました。

―タイトルにもある「パレートの法則(※)」と同じような考え方を以前からされていたそうですね

「2:8」という考え方が、私の思想と本当に近いもので、「これはすごいぞ」と思いました。「すでに世の中に提唱されていたんだ」と驚きました。高校のころ、いろんなことが「2:8」になるなって思っていたんです。そういう考え方をしたらすごく楽になって。「この場合は、私は2のほうだな」とか、考え方の指標になったというか。正解がわからないときに自分は何を信じたらいいのか、というとき、「自分は2のほうでありたいな」というふうに考えるようにしていました。それって、マイノリティーとも言えるし、勝者でもある。孤独でもあるし、弱者とも考えられるから、逆にそういう立場の人を助けたいって考えることもあって、私の人格形成の入口の部分だったので、今回、その数字を見て「絶対自分がやるべきだ!」って思いました。

―脚本を読んでみていかがでしたか?

原作からけっこう変えている部分があるんです。監督さんやプロデューサーさんの意見や哲学が投影されているというか。ある種のオリジナル作品になっているように感じました。

―そのような問題提起やメッセージ性は「連続ドラマW」の魅力ですね

今回の大きなテーマでもある生活保護について、市役所で働いている方やケースワーカーとして働いている方にスタッフの方が綿密に取材をしてくださっていて、その話をしっかり聞かせていただきました。でも、監督もずっとおっしゃっていたんですが、「答えのないもの」でもあるんですよね。撮影中も難しいテーマだなと思いながらでしたが、ドラマを通じてできることは、あまり現実離れしていない希望を提唱することだと思うので、そこにちゃんと説得力を持たせられるように丁寧に作ろう、と思っていました。

―理不尽な世界に足を踏み込んでいく聡美の立場にも通じますね

聡美は本当にすごい子だと思います。こんなに切り込んでいく力がある女性は尊敬しますし、自分もこんな風に人と向き合えたらと思います。物事を動かす原動力になるのって「怒り」だと思うんですけど、聡美ちゃんはそれをちゃんと持っているし、私自身も持っているので、その部分は重なる部分があるかなと思います。

―「怒り」とは具体的にどのようなことでしょう

人に対して怒ったりはしないですけど(笑)。でも、普通に生きていて「なんで?」って思うことってたくさんあるし、たとえば「世界平和」っていうと「そんなの無理に決まってる」って諦めちゃってる部分があるように思うんです。でも、それを覆したいというか、理屈では無理ってわかっていても、やるかやらないかでいうと、やらないという選択肢はない。「そういうふうに生きたほうが面白くない?」っていうのも、このドラマを通して伝えたいことでもありますね。

―増田貴久さん演じる小野寺との関係性も見どころですね

小野寺さんという役が、聡美からの印象がすごく変わる役どころなんですよね。経験値の高い先輩から同志となり・・・心の距離感がどんどん変わっていくんです。それがすごく面白いですね。2人の関係って・・・あまり言うとネタバレになりますけど(笑)。

―今後、橋本さんご自身が挑戦してみたいことはなんですか?

もう、やりたいことがたくさんあり過ぎて言い切れないです(笑)。でも、これまではやりたくてもできなかったことに着実に挑戦できていますし、やりたいことの貯蓄がいっぱいあるので、小出しにしていきたいです。具体的に言ってしまうとチープになる気がするので、今後に期待していてくださるとうれしいです(笑)。

―ありがとうございました

橋本愛(はしもと・あい)
1996年1月12日生まれ、熊本県出身。
映画『Give and Go』で映画初出演・初主演。2010年の映画『告白』で大きな注目を集め、2013年の映画『桐島、部活やめるってよ』などでの演技が評価され日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。2018年、2019年と2年連続で大河ドラマへの出演を果たす。現在、映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』が公開中。
ヘア=YUUK(W)
メイク=Naomi Nishida (KiKi inc.)
スタイリスト=Saeko Sugai
衣装協力=ドレス(CECILIE BAHNSEN/123,466円/輸入関税込・参考価格)、シューズ(SIES MARTAN/101,624円/輸入関税込・参考価格)ともにファーフェッチ カスタマーサービス(電話:050-3205-0864)、ブラウス(スタイリスト私物)

※パレートの法則・・・イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが1896年に提唱した「全体を構成する数値は、その一部分が大きく影響を及ぼしている」という経験則。全体の2割の構成要素が利益のほとんどを生み出しており、その2割を排除すると、残った8割のうちの2割が利益を生むようになるというもの。

ABOUT
不本意ながら嘱託という形で市役所の福祉課に勤める牧野聡美(橋本愛)は、生活保護利用者と直接向き合うケースワーカーの仕事を命じられる。同僚の小野寺淳一(増田貴久)と共に、迷いを抱えながら多くの利用者たちと向き合っていく聡美。ところがある日、自分を励ましてくれていた主任の山川(和田正人)が、あるアパートの火事の現場から他殺体で発見される。周囲で、山川が何らかの不正に関わっていたのではないかという疑念が膨らんでいく中、聡美と小野寺は町を覆う不正の影に巻き込まれていく。
配給:放送:WOWOW
公開日:3月7日(土)よりスタート、毎週土曜夜10:00~(全5話)[第1話無料放送]3月7日(土)夜10:00スタート