「登場する家族を自分の家族と思って愛してほしい」/『焼肉ドラゴン』鄭義信監督&大江晋平インタビュー

朝日舞台芸術賞グランプリや読売演劇大賞および最優秀作品賞など、数々の演劇賞を受賞した舞台を、作・演出の鄭義信自らが初監督となって映画化した『焼肉ドラゴン』が公開された。70年代を舞台に、時代の波に翻弄されながらも強く生きた家族を描いた本作は熱狂的な支持を受け、2008年の初演の後、2011年、2016年と再演を重ねている。本作で、学校でいじめられ心を閉ざしてしまう末っ子の時生を演じるのは、本作で映画デビューとなった大江晋平。初監督・初出演コンビとなった鄭監督と大江に話を聞いた。

写真=松林満美

―本作に込めた思いを聞かせてください

鄭義信(以下、鄭) 取り立てて、なにか難しいことやテーマを伝えたかったわけではなく、家族の愛を見ていただければ一番いいと思っています。一番最初に『焼肉ドラゴン』という作品を書いたときには、一つの在日家族の日常を描いたつもりだったのですが、上演や映画化となるうちに、普遍的な家族の物語として多くの方が捉えてくださるようになったということで、それはそれでありがたいことだなと感じています。

―映画にするにあたって工夫した点はどこでしょうか

 舞台はワンセットなので、映画にするにあたり、せっかくなので別のシチュエーションのシーンはぜひ足したいなと思っていました。たとえば、時生(大江)くんの学校生活やキャバレー、空港の前でリヤカーを引くシーンなどです

20180626-01_sub01―大江さんは、時生を演じるにあたって監督とはどのように話をされましたか?

大江晋平(以下、大江) 演技初心者なので、まずは自分なりに演じてみて、カットのあとに監督からアドバイスをいただいていました。自分のイメージはあったんですが、思っていたよりもっと熱量が必要な役だとわかったので、ちょっと考えが甘かったなと思いました。

 言葉を使わない難しい役で、ご本人も芝居の経験がないということで未知数だったんですが、いざ撮影がはじまってみると、共演者からもかわいがられていましたし、だんだん自分の立ち位置や見せ方もわかってきたのかなと感じました。この先はどうなるかわかりませんが(笑)、今回は初々しくてよかったんじゃないでしょうか。

大江 ワークショップなどでは、セリフの覚えがよくないほうだったので、その意味では助けられたのかな(笑)。でも、逆にセリフがない中で表現していかなければならない難しさもあったので、いろいろ考えながら頑張りました。

―点数をつけるとしたら?

大江 25点くらいですかね…。満点になることはないと思います。家族に囲まれて暴れるシーンがあったんですが、リハーサルのときから力の加減ができなくて思いっきり暴れてしまったり…。共演者のみなさんに本当に助けていただきました。

 初めてにしては、よくがんばっていたと思いますよ。(点数は)倍くらいはあげてもいいかな(笑)。

―監督は、現場ではどのように演出されたのですか?

 出演者のみなさんには、一度、自分でやりたいようにやっていただいて、もしずれていれば話しをしますが、基本的には自由にやっていただきました。みなさんキャリアをお持ちの方なので、こちらの意図することをきちんと汲み取って、演技していただけました。

―激しい取っ組み合いのシーンなどもありました

 演じているほうは大変だったと思います(笑)。そういったパッションやエネルギーを発揮しなければいけないシーンは、リテイクしないで撮りたかったので、「一発で決めましょう」と気持ちを一つにして撮影に入りました。

―韓国語も入り混じってのセリフでした

 韓国語より、むしろ関西弁が難しいと言っていました(笑)。三姉妹が口を揃えて「難しい」とおっしゃっている中、大泉(洋)さんだけは、「俺はイケてる」と言っていましたね。韓国人チームは特に大変だったようです。日本語で、それも関西弁だったので、セリフを一生懸命覚えようと頑張っていましたよ。

大江 自分は関西出身なんですが、昔の関西弁というか、普段話している言葉とはちょっとイントネーションが違ったんです。普段話しているようにナレーションをしてみても、「いや、違う」とバッサリでした(笑)。

 舞台が70年代なので、より「関西弁らしい」といいますか。今の若い方が話す関西弁は、より標準語に近づいているんです。

20180626-01_sub02―お気に入りのシーンはどこですか?

 空港の前で、お父さんがリアカーに時生くんを乗せて走るシーンです。もともとは普通に押すシーンだったんですが、当日の朝に思いついて、「乗って」とリクエストしました。すごく暑い日だったんですが、8回くらいでしょうか、全速力で走って、汗だくになっていました。

大江 自分は、オモニ(イ・ジョンウン)の、いろいろなことを許して受け入れる優しさ、大きさが心に残りました。

―この先、挑戦してみたいことはなんですか?

大江 恋愛映画です。昔から、現実じゃ体験できないロマンチックなシチュエーションに憧れがあるので、映画でぜひ体験したいです。

 聞かなかったことにします(笑)。

―最後にメッセージを

 いろんな思いが詰まっていますが、ここに登場する家族を自分の家族と思って愛していただけるとうれしいです。ぜひご家族で劇場に足を運んでください。

大江 自分の家族に置き換えてみて、ほっこりしていただけると思いますので、ほっこりしたい方にはおすすめです!

―ありがとうございました

左・鄭義信(チョン・ウィシン/てい・よしのぶ)
1993年に「ザ・寺山」で第38回岸田國士戯曲賞を受賞。同年、映画『月はどっちに出ている』の脚本で、毎日映画コンクール脚本賞などを受賞。1998年、『愛を乞うひと』でキネマ旬報脚本賞、日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第一回菊島隆三賞、アジア太平洋映画祭最優秀脚本賞など数々の賞を受賞した。舞台「焼肉ドラゴン」では、第8回朝日舞台芸術賞グランプリ、第12回鶴屋南北戯曲賞、第16回読売演劇大賞大賞・最優秀作品賞、第59回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど数々の演劇賞を総なめにした。2014年春の紫綬褒章受賞。

右・大江晋平(おおえ・しんぺい)
1999年11月25日生まれ。大阪府出身。
2018年、ドラマ「花のち晴れ~花男 Next Season~」に出演。本作で映画初出演となる期待の若手俳優。

ABOUT
万国博覧会が催された1970(昭和45)年。高度経済成長に浮かれる関西の地方都市の一角で、ちいさな焼肉店「焼肉ドラゴン」を営む亭主・龍吉(キム・サンホ)と妻・英順(イ・ジョンウン)は、静花(真木よう子)、梨花(井上真央)、美花(桜庭ななみ)の三姉妹と一人息子・時生(大江晋平)の6人暮らし。店の中は、静花の幼なじみ・哲男(大泉洋)など騒がしい常連客たちでいつも賑わい、ささいなことで泣いたり笑ったり―。そんな、何が起きても強い絆で結ばれた「焼肉ドラゴン」にも、次第に時代の波が押し寄せてくるのだった―。
配給:KADOKAWA/ファントム・フィルム
公開日:絶賛公開中
公式サイト:http://yakinikudragon.com
(C) 2018「焼肉ドラゴン」製作委員会