
写真=松林満美
―尚子の役作りについて教えてください
初めて台本を読んだときは、結婚相手にはっきりと意見が言えなかったり、一見、弱気でふんわりした女性なのかな、という印象がありました。でも、監督とコミュニケーションを取りながら尚子の人物像を掘り下げていく中で、京都に残る古いものの良さをかたくなに守っていたり、意外に芯の強い女性なのかな、というようにイメージが変わっていきました。その芯の強さを、前面に出すわけではないけど、奥底に秘めた上で演じるように心がけました。
―器の大きさも感じました
そうかもしれないですね。でも、昔の恋人と2人で会って相談したり、女性としてちょっとずるさを感じることもありました(笑)。ただ、結婚って人生の一大イベントで、結婚する前に会いたいという気持ちもわからないでもないですし、尚子は日本の古き良きものの大切さをしっかり分かっているので、その点は尊敬できますね。
―台湾との合作映画。難しさはありましたか?
私も韓国で活動をしながら文化の違いを感じることがあったり、日本で通用することが伝わらないなどの葛藤がある中で、こういった作品を作る苦労はあると思うのですが、実際に海外の方と交流があるとドラマが起こったりもすると思いますし、苦労して作り上げる意義のある作品だな、というのを、脚本を読んだときに感じました。
―撮影現場はどのような雰囲気でしたか?
いろいろな言葉が飛び交っていました(笑)。日本語と英語と、中国語と、京ことばと…(笑)。「この人には何語で話せばいいんだっけ」なんて言いながら、その状況をみんなが楽しんでいました。この映画のシーンではないですけど、伝えようと思ったら伝わるし、和気あいあいと撮影した記憶があります。
―ジェイ・チェン監督はどのような指導をされていましたか?
それがジェイ監督式なのか、台湾式なのかわかりませんが、かなりテイク数を重ねました。何度も挑戦させていただけてよかったです。私は、言葉のこともあって、いろいろとパターンを変えながらトライしたいと思っていたので、私にとってはとてもやりやすい現場でしたね。京都の言葉で話す難しさもそうですし、感情の表し方も「ちょっとストレートに出してみよう」とか、ニュアンスを変えながら挑戦しました。それを監督がいいように料理してくれた感覚です。
―今年は年齢的にも人生の節目を迎えます
17歳でデビューして、もう新人とは言えない年齢になり、ようやく「楽しむ」ことができるようになった気がします。まだまだ新しい挑戦をすることもありますが、がむしゃらだった10代、20代とは違って、楽しんで挑戦していきたいですね。
―たとえば、どのようなことに挑戦したいですか?
この作品でスイッチが入って、英語を勉強するために語学学校に通うようになりました。韓国語も、最初は趣味だったものがお仕事につながったように、このお仕事をしていると特技や趣味がいつか活かされるので、学ぶことも次に活きると思って、改めて言語の勉強をしてみようと思ったんです。京ことばのような地方の言葉も、地元の方の思いやこだわりがあって奥が深いので、そういう部分を表現できるようになりたいなと思います。
―本作で、京都の土地を散策する機会はありましたか?
あっという間ではあったんですけど、ちょうど紅葉の時期に撮影があったときに、朝早く紅葉の名所を巡りました。尚子が京都に住んで、日本の良いものを愛する気持ちにつながるいい経験になったと思います。紅葉の京都に行ったことがなかったので、ラッキーと思いながら楽しんでいました(笑)。
―最後にメッセージを
非現実的なことやドラマチックなことが起こるわけではないですが、日常的に経験しうる出来事や人とのかかわり、心の動きを丁寧に描いた作品で、どんな方も共感できる部分があると思います。男女問わず、どの世代の方にも楽しんでいただけると思います。セリフも心に刺さるものが多いので、ぜひそういうものを探しに劇場に観に行っていただきたいです。
―ありがとうございました
藤井美菜(ふじい・みな)
1988年7月15日、新潟県出身。
2006年『シムソンズ』で映画デビュー。2012年より韓国での活動を開始し、韓国バラエティ番組「私たち結婚しました 世界版(原題)」に出演するなど人気を博する。2014年、映画『女子ーズ』に出演。2018年、キム・ギドク監督最新作映画『人間、空間、時間、そして人間(原題)』で主演を務め、第68回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に招待。韓国を中心に、アジアや世界で活躍する。