「こじらせてきたからこそ、新しく知ることがある。それが幸せ」/『ルームロンダリング』池田エライザインタビュー

TSUTAYAが新たなクリエイターの発掘を目指してオリジナル企画を募集したコンテスト「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM2015」で準グランプリ Filmarks賞を受賞した企画を映画化した『ルームロンダリング』が7月7日に公開する。天涯孤独でアヒルのランプが手放せない、ちょっぴり“不思議少女”のヒロイン・御子を演じるのは、映画『みんな!エスパーだよ!』のヒロインに抜擢されて以降、女優として成長著しい池田エライザだ。崔洋一や廣木隆一らの元で助監督を務めてきた片桐健滋監督の長編映画デビュー作となった本作は、スタッフや出演者同士、和気あいあいとした空気の中で進行したという。池田に現場の様子を振り返ってもらった。

写真=松林満美

―八雲御子を演じるにあたり気を付けたことは?

OLのお化けに「あなた化粧っ気ないわね」なんて指摘されちゃうような女の子なんですけど。閉鎖的な環境の中で楽しめていないわけではなく、友達はいないけど本を読むのが好きで、自分の好きなように彩った部屋にいるのも好きで、その環境を楽しむことができる力がある子。ひねくれてはいなくて、どちらかというとこじらせている。でも、それによって、本当は向き合わなければいけないこととか、本当は自分がどうしたいのかに目を向けられていなくて、そういう強さはまだない。ひたすら、その時間を生きている子だと思います。だから、そんな御子ちゃんにどうやって寄り添っていこうかな、というのを常に現場で考えていました。

―御子ちゃんに近い部分はありますか?

スローなペースで生きているところですね。本を読むのが好きなところも。私も、3日間、部屋にいようと思えばいられます(笑)。自分のテリトリーの中で気ままに生きている感じが近いのかな。でも、御子ちゃんほど内弁慶ではないです(笑)。私も、身内とはより仲良くなれる部分があるんですが、御子ちゃんはさらにこじれてて、プイってなっちゃうところがありますね。

―ファッションや内装にも御子ちゃんらしいこだわりが感じられます

衣装合わせのとき、その場にいた誰もが「あ、御子ちゃんの服だ」と思いました。撮影現場では、美術の方が「御子ちゃんの部屋」を作ってくれていて、「なるほど、ここに御子ちゃんは住んでいるんだな」ってすぐに納得できた。撮影前は、いろいろ相談しながら作り上げていくつもりでいたんですけど、そんな必要はなくて、スタッフさんや出演者さん、それぞれが解釈した『ルームロンダリング』を持ち寄って出来上がっていました。みんなこの脚本が好きで、素敵な作品にしたくて集まっているという感じがして、私はひたすら御子ちゃんのことだけ考えればいい、そんな現場でした。

―オリジナル脚本。読んだ時の感想は?

男性2人で考えた、それも居酒屋でのお話がきっかけで出来上がったというのがいとおしいですよね(笑)。みんなが生きている日本の中で、御子ちゃんがお化けに振り回されながらも1軒1軒、浄化しているかもしれない。みんながこわいと思っているお化けにも、もしかしたら愛すべき事情があるかもしれないって思わせてくれるような脚本。きっと、監督たちがいろんなアイデアやあったかいものを出し合って生まれたものだなって思えるので、すごく好きだなって感じました。

―現場はどのような雰囲気だったんですか?

おのおのが好きにくつろぎ、好きに集中し、なにかあれば監督と相談し、面白いことがあれば提案し・・・。疲れていたり不幸な顔をしていた人はいなかったと思います。『ルームロンダリング』という小さな惑星の中で、みんなが悠々と生活している、まったりとした世界のような現場でした。

20180704-01_sub01―アヒルのランプなどかわいい小物も出てきます

ジョセフィーヌと申します。最初は、すごいサイズだなと思いました。それが自分になじむ瞬間があって、そこが衝撃的でした。物語が進んでいくうちに、小さい頃の“小御子”が父親から受け取って、すごく大切にしているものだということがわかって、ずっと一緒にいるうちに、違和感なくアヒルを持っている自分に気付き、驚きました(笑)。

―御子にとってのジョセフィーヌのように、池田さんにも捨てられないものはありますか?

本棚ですね。白い木製の本棚で、何の変哲もないんですけど、それがとても調子がよくて。細長い部分と四角い部分と横長の部分がバランスよく組み合わさっていて。そこに本を納めるのが好きで、時間がある時はその本棚の前に立って、並び替えたり断捨離をしたりしますね。

―社会的メッセージも多く含まれた作品ですね

作品に、すごく前向きな人がたくさん出てくるんですよね。日常の中で、何かにありがたみを感じようと心を開いている人って、幸せを呼び込むのがうまいと思います。今が楽しいと解釈することが自分にとって幸せなんだと思います。当たり前に自分の家があることだってそうですよね。御子ちゃんの場合は毎月別の物件に行って、そこにはお化けがいて(笑)。それでも生きていける環境があるってすごくありがたいことだなって思います。

―幽霊たちの言動に、現代社会の閉塞感のようなものが感じられました

日々、自分の中に答えはないけど出し続けなきゃいけなかったり、アンサーを出していくしかないことっていろいろあると思います。その中で、思考を止めたり、前向きであることをやめると楽なんだろうなって思う瞬間もいっぱいあると思うんです。御子ちゃんもそうで。自分の気持ちより先に時間が経ってしまって、風化してしまったりなかったことになったり、どうしようもないこともある。それが、幽霊たちの「死んじゃった」っていう事実もそうなのかなって。それでも、ガムシャラにやっていく方法もあるだろうし、人それぞれ独自のやり方が出てきて、御子ちゃんみたいに「変わってるね」って言われるようになるんだと思います。

―池田さんは、お化けは信じていますか?

うーん、ビビりなので…(笑)。でも、『ルームロンダリング』を撮影して、もしその人たちが話を聞いてほしかったり何か助けを必要としているから出てきたのだとしたら、寄り添いたいなと思うようになりました。でも、むやみやたらに驚かせるような出方はしないでほしい。せめて穏やかに。出てきてくれたら、成仏できるまで誠心誠意・・・、ああ、でもそういうこと言うと「マジ?」って本当に来ちゃうかも・・・。どちらかというとオカルト好きなので、お化けよりも宇宙人を見てみたいです。

―最後にメッセージをお願いします

「こじらせた分だけ幸せがある」ということをどうしてもお伝えしたいです。御子ちゃんが閉鎖的な環境の中で独自の生き方をしてきて、こじらせてきたからこそ、幽霊たちと触れ合うことになり、いろいろな意見に触れることで見えてきた世界の中で、新しいものを掴んで、新しい感情を知っていくことが幸せなのかなって。今を生きて、こじらせて悩んでいる人に響くことがたくさんあるのではないかと思いました。

―ありがとうございました

20180704-01_sub02池田エライザ(いけだ・えらいざ)
1996年4月16日生まれ。福岡県出身。
2009年、ファッション雑誌「二コラ」のモデルオーディションでグランプリを獲得し、モデルデビュー。2011年、『高校デビュー』で映画デビュー。2015年、『みんな!エスパーだよ!』でヒロインに抜擢され、以降、女優業が急増。2017年の『一礼して、キス』で映画初主演、ドラマ「ぼくは麻里のなか」でドラマ初主演を飾った。主な出演作は、映画『オオカミ少女と黒王子』『ReLIFE リライフ』『トリガール!』『伊藤くんA to E』『チェリーボーイズ』など。公開待機作品に、8月31日公開の映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』、10月19日公開の映画『億男』などがある。リリー・フランキーと共に音楽番組にてMCとしても活躍中。

ABOUT
5歳で父親と死別した八雲御子(池田エライザ)。翌年には母親も失踪してしまい、祖母に引き取られた御子だが、18歳になると祖母も亡くなり、天涯孤独となってしまった。しかし、祖母の葬式に叔父の雷土悟郎(オダギリジョー)が現れ、住む場所とアルバイトを用意してくれた。その仕事とは、事故物件に住み込んで事故の履歴を帳消しにし、次の住人を迎えるまでにクリーンな空き部屋へと浄化する「ルームロンダリング」。引っ込み思案で人付き合いが苦手な御子にとって都合のいい仕事だったはずが、行く先々で待ち受けていたのは、幽霊となって部屋に居座る、この世に未練たらたらな元住人たちだった。
配給:ファントム・フィルム
公開日:7月7日(土)より、新宿武蔵野館、渋谷HUMAXシネマ、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
公式サイト:http://roomlaundering.com
(C) 2018「ルームロンダリング」製作委員会