
写真=松林満美
―淳之介を演じるにあたり気を付けたことを教えてください
表面だけ見るととても危なっかしい人物というか、何か明確な考えがないと説得力のない言葉や、考えなしに言っていると優しくない言葉が多いように感じました。だから、ちゃんとその言葉の裏に、きつい過去を乗り越えてきたからこそ出てくる説得力というのをきちんと演じるように心がけました。監督とは何度も話をする機会がありました。ワークショップじゃないですけど、自分が経験したつらい経験を語り合って、そのとき自分がどんな様子だったか共有して、そうやって淳之介の「乗り越えてきた感じ」が作られていったと思います。
―淳之介の達観した感じはそういうところからきているんですね
ただ履歴書にステータスだけを書いたら、きっと「ヤバい人」なんですよね、淳之介は。そういう彼の境遇を描きたいわけではないので、最初は、さぁどうする、となりました。だから、第一印象じゃないですけど、登場のシーンはすごく気を付けたと思います。雑誌を見つけて座り込む仕草をするんですが、ひどい話ですけど、意識せずにあくびしちゃったんですよ(笑)。監督がそれを見て爆笑していて。普通、絶対にあくびが出るなんておかしいんですけど、観客にとっては「なんだこの人」となる、いい入り方になったのかなと。
―劇中でギターや歌声も披露していますね
以前、バンド活動はしていたんですが、ギターを弾きながら歌っていたわけではないので、練習しなきゃという感じでした。オリジナルの曲は、自分が弾けるコードと歌える曲で作って、「RUNNER」など元からある曲を練習して、音楽担当の方に作っていただいた曲も練習して・・・。けっこう曲数があったので、泣きそうでした(笑)。
―曲はどれくらい前から作り始めたんですか?
クランクインの3週間くらい前でしたかね・・・。突然、「さぁ作りましょう」という感じで(笑)。でも、逆にそれがよかったかもしれないですね。変にコードや進行が決められてたり用意された曲を覚えたり、というより、限られた時間の中で自分の弾きやすい曲を作ることができたので。うれしかったのが、エンドロールに「作曲」として名前が載ったことですね。俳優としてではなく名前を入れていただいたのが初めてだったので、うれしかったです。
―「淳之介」として歌う難しさはありましたか?
超絶うまい、というより全然やりやすかったです(笑)。道行く人に「ドへたくそ!」って言われるんですけど、逆に「ありがとうございます!」という感じでした。でも、「へたくそ」とか「心に響く」とかって何だろうって思うようになりました。淳之介は「響かせよう」と思って歌っているのか、とか。うまく歌おうとしたら歌えなくなるって、淳之介のセリフにもあって。でも、結果、考えるのをやめました。淳之介はそういうのじゃなくて、そのあたりはピュアでいいんだろうなって思うようになりました。監督が笑ってればそれで正解かなと(笑)。
―よく笑う明るい雰囲気の監督さんなんですか?
原(桂之介)監督が一番、淳之介みたいな人なんですよ(笑)。あぶなっかしいんですよ、言葉とか行動とかが。でも、すごく感覚が共有できました。たとえばカットがかかったときに、自分としてはもう一度やりたいなと思ったら、監督から「もう一回やる?」と言われたり。手ごたえがあったときに視線が合って、「今のよかったね」って目で会話したり。登場人物みたいな人が監督だったのって初めてでした(笑)。
―自由な感じの撮影現場だったんですね
スタッフさんは大変だったかもしれませんが(笑)。でも、みなさん「やってやるか」という感じで、同じ方向を見ながら進めているような現場で、それがすごく幸せでした。みんな淳之介と瑞穂のことが好きだったし、僕たちも淳之介と瑞穂を好きでいてくれるとうれしいし。すごく愛情のある現場だったと思います。
―知英さんとの共演シーンが多かったと思いますが、どういったことを話されたんですか?
あまり役についてどうこう、という話はしていなくて、車いすの使い方とか安全面みたいな話をしたくらいで、あとはずっとくだらない話をしていました。それこそ、淳之介と瑞穂の関係のようでしたね。彼女がいると本当に現場が明るくなるんですよ。明らかに、現場の空気がちょっと上がるというか、明るくなる。「あれ、今までくもってた?」と思うくらい(笑)。それが魅力なのだと思います。
―前回、MovieHighwayのインタビューで「キラキラした青春を取り戻すような作品に出たい」とおっしゃっていました
そうですね(笑)。本作でその青春っぽさを表現することができましたし、今年は、『春待つ僕ら』で制服を着て青春ど真ん中の作品にも出ることになったので、「言ってみるもんだな」と思いました(笑)。最近は、先生役にも興味が出てきました。実は、両親が学校の教員なので、かかわりが深いんです。今回の淳之介のような役も面白いですが、そういったかかわりの深い役にも挑戦してみたいです。もちろん、また制服をと言われれば、ぜひ着させていただきます。
―最後にメッセージをお願いします
どんな世代の人にとっても、なにかしら琴線に触れる作品になったと思います。登場人物の全員が愛せるというか、どの人のセリフも心に刺さるというか。淳之介の達観した言葉の数々も、「あぁ、そうだよな」と思えるものばかりでした。へこんでるときでも、ハッピーなときでも観られる映画。障害をテーマにしているからとっつきにくい・・・という先入観だけは持たないでいただきたいです。今思い出しても泣けるポイントたくさんあります。ぜひ、劇場でご覧ください。
―ありがとうございました
稲葉友(いなば・ゆう)
1993年1月12日、神奈川県出身。
2010年、テレビドラマ「クローンベイビー」で俳優デビューを果たし、2011年、舞台「真田十勇士~ボクらが守りたかったもの~」で初主演。2014年に「仮面ライダードライブ」で仮面ライダーマッハ役を演じたほか、映画やドラマ、舞台に幅広く出演している。『N.Y.マックスマン』で映画初主演を務めたほか、2018年冬に『春待つ僕ら』が公開予定。J-WAVE『ALL GOOD FRIDAY』(毎週金11:30~16:00生放送)にてナビゲーターを務める。