「これだけ多くの人の心に響いたというのは驚きでした」/『クレイジー・フォー・マウンテン』ジェニファー・ピードン監督インタビュー

2017年9月にオーストラリアで公開され、ドキュメンタリー映画として年間No.1の大ヒットなった『クレイジー・フォー・マウンテン』が公開された。ネパールのエベレストやフランスのモンブランなど、世界各地の名所を舞台に繰り広げられる山を愛する人間たちの冒険に迫った本作。圧巻の映像美も話題となっているが、本作を手掛けたのは、山岳ドキュメンタリー『Sherpa』で高く評価された女性監督のジェニファー・ピードンだ。彼女に撮影時のエピソードなどについて振り返ってもらった。

取材・文・写真=志村昌美

―まずは、公開時にこれほどの成功を収めたことについて、どのように感じていますか?

この作品は、もともとオーストラリア室内管弦楽団の委託があって始まったプロジェクトだったので、自分の作品というよりも、一種のコラボレーション作品として捉えていました。なので、最初はコンサート中に流す映像として作り始めましたが、せっかくなら映画館でも上映できるようにしようということで、今の形になったんです。そういう経緯もあり、興行収入においての成功というのはまったく考えていなかったので、これだけ多くの人の心に響いたというのは正直驚きました。

―山好きはもちろん、それ以外の方からも反響があったということでしょうか

そうですね。というのも、オーストラリアには山がほとんどないので、山好きの方だけではこれだけの成功はしなかったと思います。本作は、イギリスなど、オーストラリア以外でもたくさんの観客が気に入ってくださいましたが、スリルに興味のある若い人たちからクラシック音楽が好きな高齢の方、さらには哲学的な側面を持つナレーションに心を打たれたと言ってくださる方など、幅広く楽しんでいただけました。

―迫力の映像が満載ですが、どのように撮影したのでしょうか?

こういう環境で撮影するのはとても難しくて厳しいので、できる人は限られていますが、今回はドローンや空中撮影、さらにはカメラマンが一緒に山に登りながらなど、撮影方法もさまざまでした。ただ、大変だったことの一つといえば、ヒマラヤではドローンが操作できなくなってしまうことです。というのも、あのくらい標高が高いと空気が薄くなり、プロペラが機能しなくなってしまうので、ヘリコプターでさえもベースキャンプより先は飛ぶことができませんでした。

―今回はほかの人が撮影したアーカイブ映像も使用されているそうですね

そうなんです。この作品で使っている映像は、実際に私が撮り下ろしたものだけではなく、撮影監督のレナン・オズタークがこれまでに撮った映像や彼の知り合いの登山家の方々が撮っていたものをお借りして作った部分もありました。

―ということは、74分にまとめるまでにかなりの資料映像をご覧になりましたか?

それはとにかくすごい量でした。おそらく1000時間は超えていると思います。

―実際に監督が行ったところで思い出の場所はありましたか?

私がその場に行ってしっかり指示しながら撮影したのはヒマラヤなので、エベレストでの空中撮影や村での撮影というのは、個人的に一番思い入れがある場所です。エベレストは行って帰ってくるだけでも2カ月は必要なんですよ。

20180720-01_sub01―本作では山だけでなく、音楽も圧倒的でしたが、オーストラリア室内管弦楽団とのコラボを経て、映画と音楽の取り組み方が変わったことはありましたか?

映像監督として、これまでも音楽を取り入れたり、作曲家と一緒に制作したりしたこともありましたが、この作品がほかと違っていたのは、コンサートを成立させる映像でないといけないというのが大前提としてあったことです。つまり、映像が足りないからといって曲の途中でフェードアウトすることはできないので、曲に合わせるために映像を入れないといけないというのは大変なことでした。それはこれまでにない経験だったので、苦労したところでもありますね。

―ウィレム・デフォーのナレーションも印象的でしたが、オファーした決め手は何ですか?

まずは管弦楽団の音楽に引けを取らないくらいの力強さがあって、楽器の一つと思えるくらい美しい声色を求めていました。あとは、説得力のある声でないといけないということと、各分野の優れた表現者のコラボレーション作品に対する理解がしっかりとしているということが大事だったんです。そこで、ハリウッドの大作からインディーズ映画まで冒険的な仕事の受け方をしているウィレム・デフォーなら、私たちに共感してくれるのではないかと思ってお願いしました。実際、すぐにイエスと返事をもらうことができて、うれしかったです。

―最後に、これから観る方に向けてメッセージをお願いします

この作品は、ただのドキュメンタリーでもないですし、よくある長編映画でもないので、普通の映画とは違う作品になっていると思います。おそらく、ほかでは得られない経験ができるはずです。人によっていろいろな楽しみ方ができる作品でもあるので、ぜひご覧ください。

-ありがとうございました

20180720-01_sub02ジェニファー・ピードン
極限状況に置かれた人々の素顔に迫る、人の心を掴んで離さない作品づくりに定評がある女性監督。2008年の代表作『ソロ ロスト・アット・シー 冒険家アンドリュー・マッコリーの軌跡』は、主要なドキュメンタリー映画祭の公式セレクションで上映されたのをはじめ、数々の賞に輝いた。その後、2015年の『Sherpa』でも、第69回英国アカデミー賞ドキュメンタリー賞へのノミネートや第59回ロンドン映画祭でグリアソン・アワードでのドキュメンタリー長編賞受賞など、各国の映画祭で高く評価される。オーストラリアのドキュメンタリー映画としてはこの年の1位、史上3位の興行収入を記録した。そのほかの作品は、『Miracle on Everest』やTV番組「Living the End」など。

ABOUT
エベレスト(ネパール)、モンブラン(フランス)、メルー(北インド)、デナリ(アメリカ)など、世界各国の難関峰。そこで繰り広げられているのは、山を究極まで愛した人間たちのクレイジーな冒険だった。感動を呼び起こすのは、圧巻のスケールで映し出された映像とオーストラリア室内管弦楽団が奏でる荘厳なクラシック音楽の数々。名優ウィレム・デフォーのナレーションが見たこともない超絶体験へと誘う。
配給:アンプラグド
公開日:7月21日(土)より、新宿武蔵野館・シネクイントほか全国順次ロードショー
公式サイト:https://crazy4mountain.com/
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