「たくさんイマジネーションをして臨みました」/『火口のふたり』瀧内公美インタビュー

直木賞作家・白石一文が男と女の極限の愛を描いた小説を、数々の作品で男と女のエロティシズムを表現してきた脚本家・荒井晴彦が映画化した『火口のふたり』が8月23日(金)から公開される。何気ない会話や食事、身体の言い分に身を委ねる2人の日常の性愛を描いたこの作品でヒロイン直子を演じ、妖艶な濡れ場にも体当たりで挑んだのが女優の瀧内公美だ。この作品に臨むにあたり心がけたことや、作品の見どころ、撮影中の知られざるエピソードなどを語ってもらった。

取材・文=幸谷亮 写真=松林満美

―脚本を読んだ時の感想を聞かせてください

キャストが直子と賢治(柄本佑)だけなので、セリフが多いのはもちろん、男女2人しか出演しない分、心情の微妙な変化も丁寧に表現しないといけないなって。脚本には「ひと口食べ、話し始める」など、セリフ以外にも動作や仕草などの指示が細かく書かれていたので、それを頭に入れてイマジネーションを膨らませた上で臨もうと思いました。

―どのように役作りをして臨みましたか?

1970年代に妖艶な演技で注目を浴びた渥美マリさんの作品や『痴人の愛』を見たりしました。役を作ることで言えば、「直子が一番大切にしていることはなんなのか」「賢ちゃんと過ごした東京は直子にとってどんな思い出だったのかな?」など、脚本に書かれていない部分について私なりにたくさんイメージすることで、自然と人物像が見えてくるというか。「直子は何型なのかな?」ってことまで考えていましたね(笑)。実際は現場で演じてみないと分からない部分もたくさんあるんですが、たくさんイマジネーションをして臨みました。

―体作りもされて臨んだそうですね

少し体重を増やしました。衣装合わせの際、直子の衣装がカジュアルでラフな服装ということもあって、少年のように見えてしまったんです(笑)。なので、体重を増やして丸みを帯びたラインを作ることで、そういった服装でも女性らしさが出たらいいな、と思っていました。

―直子とご自身に共通する部分はありましたか?

最後の最後に行動するところは似ているかもしれないですね。直子の結婚式の直前に2人は再会を果たし、「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」という直子のひと言をきっかけに昔のように体を重ね合いました。私も最後のチャンスだと思ったら行動に移すタイプで、高校受験の時も大学受験の時も、ずっと不合格判定だったのに滑り込みで合格する、みたいな(笑)。追い込まれたら力を発揮するタイプみたいですね。

―瀧内さんが“あの頃”に戻れるとしたらいつに戻りたいですか?

う~ん、戻りたい頃ばっかりで選べません。あの頃にもこの頃にも戻りたいので、話してたら朝になっちゃうかもしれないです(笑)。“あの頃”があるからこそ今があると思いますので、戻りたいというよりは、これからどうしていくかが重要かなって思いますね。

―現場の雰囲気はいかがでしたか?

穏やかで明るい現場でした。でも、メインキャストが2人しかいませんし、撮影の日程がそれなりにハードで・・・、本編自体は10日間しか撮影期間がなかったので、朝8時から17時くらいまでずっと撮影している感じでした。それでも、振り返ってみると穏やかな現場だったなって思えるということは、スタッフさんたちがそういう現場にしてくれていたんだと思います。本当に感謝しています。

―「世界が終わる時、誰と何をして過ごすか?」という究極の問いを観る者に突きつける作品でもあります。瀧内さんなら、誰と何をして過ごしますか?

作品中にも食べるシーンが頻繁に出てきますが、私も食べるのが好きなので、家族と食事をしながら話をして過ごしたいですね。でも、お芝居もしてたいかも・・・そんな状況になったらこんなこと言ってられないかもしれないですけど(笑)。

―作品をご覧になって、印象に残ったシーンはどこですか?

秋田・西馬音内(にしもない)の盆踊りのシーンがすごく好きですね。撮影が終わってから知ったんですが、日本三大盆踊りの一つなんです。撮影させていただけたことはありがたかったですし、作品の中でファンタジーを感じられる重要な部分でもあるので、不思議な雰囲気に仕上がってるなって思いました。

―秋田県が舞台の作品ですが、撮影されてどのような印象を持たれましたか?

今回、撮影で初めて行き、その後に秋田で開催された「あきた十文字映画祭」にも参加させていただいたんですが、秋田の方は本当に素敵だなって思いましたね。映画祭の方たちにボランティアで作品にも携わっていただいて。そのおかげで作品が完成したんだって実感しています。

―秋田の名産品は食べましたか?

「いぶり漬け」と「稲庭うどん」を食べました。ホテルのバイキングにいぶり漬けがあったので、毎朝食べてました。水がおいしいからでしょうか、お米もおいしくて。ぶくぶく太らないように気を付けながら食べていました。

―最後に、作品を楽しみにしている人にメッセージをお願いします

ポスターの印象などから、堅くて暗い映画だと勘違いされるんですが、全然そんなことはなく、青春映画のような爽やかな作品に仕上がっています。実際、20歳の女の子を試写に誘って観てもらったら、「高校生の時に付き合っていた人に会いたくなりました」って言われて。年齢的に直子と賢治はもう少し上ですが、年齢に関係なく通じるものがあるんだと思います。原作を読んでいる人でも楽しめる作品ですので、気軽に劇場に足を運んでいただければ嬉しいです。

―ありがとうございました

瀧内公美(たきうち・くみ)
1989年10月21日生まれ、富山県出身。
2012年に女優としてデビュー。2014年の映画『グレイトフルデッド』で主演を務める。2017年の主演映画『彼女の人生は間違いじゃない』では、第27回日本映画プロフェッショナル大賞新人女優賞受賞、2017年度全国映連賞女優賞受賞など、高い評価を得る。近年の出演作に『日本で一番悪い奴ら』『21世紀の女の子』、ドラマ「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」など。現在、ドラマ「凪のお暇」(TBS系)が放送中。

ABOUT
10日後に結婚式を控えた直子(瀧内公美)は、故郷の秋田に帰省した昔の恋人・賢治(柄本佑)と久しぶりの再会を果たす。新しい生活のため片付けていた荷物の中から直子が取り出した1冊のアルバム。そこには一糸纏わぬ2人の姿が、モノクロームの写真に映し出されていた。蘇ってくるのは、ただ欲望のままに生きていた青春の日々。「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」――直子の婚約者が戻るまでの5日間。身体に刻まれた快楽の記憶と葛藤の果てに、2人がたどり着いた先は――。
配給:ファントム・フィルム
公開日:8月23日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
(C)2019「火口のふたり」製作委員会