「こんな一面もあるんだって受け入れていただけたらうれしい」/『光』橋本マナミインタビュー

徹底的に人間の闇を描いた三浦しをんの原作を、『さよなら渓谷』『まほろ駅前』シリーズの大森立嗣監督が映画化した『光』が公開した。井浦新と瑛太の狂気と怪物性、長谷川京子と橋本マナミの色気と母性が、苛烈な人間ドラマを描き出す本作。闇を抱えながら家族と共に暮らす信之(井浦)の妻で、平凡な生活を送りながらも周囲の目を気にして、彼女もまた心に鬱屈した感情を抱く南海子を演じた、橋本マナミに話を聞いた。

写真=松林満美

―普段、テレビに出られている時とは大きく印象が違いますね

まわりの方々からも「印象が違うね」とよく言われました。でも、私自身は南海子と近い部分がたくさんあるんです。コンプレックスが強かったり、人との関わりが苦手だったり…。テレビでは“愛人にしたい”とか華やかなイメージを持っていただくことが多いと思いますが、私生活はけっこう地味なんですよ。巻き髪もしていません(笑)。

―この作品をきっかけに、またご自身のイメージが変わるかもしれませんね

それもいいかもしれませんね(笑)。どちらの面も持っているので、「こんな一面もあるんだね」と、どちらも受け入れていただけるとうれしいです。役作りの面では、私は結婚していないし子供もいないので、気持ちづくりに苦労しましたけど、性格などの面ではスッと入っていけました。

20171130-01_sub02―脚本を読まれた感想を教えてください

三浦しをんさんの原作は、精神的な描写がすごく細かく描かれていて、人間の闇の部分が表現されていることに感動しました。映画では、ほとんどのシーンが2人芝居…1対1の構図なんです。2人というのは、楽しくもあり、怖くもあるシチュエーションなんですよね。芝居と芝居のぶつかり合い、というような。

―共演した井浦新さん、瑛太さんの印象はいかがでしたか?

新さんは、撮影の合間も信之そのものでした。もちろんお話などはしたのですが、まったくつかめなくて距離があって…、信之になりきってらっしゃったからですが、いまだに新さんの人となりがわかりません(笑)。瑛太さんも輔そのものでしたね。南海子は、輔に対しては一番感情を出すシーンが多いので、かなりコミュニケーションを取りましたし、お芝居的にも助けていただきました。

―かつてワークショップにも通われていたという、大森立嗣監督の現場はいかがでしたか

ワークショップに通っていたのは8年ほど前だったのですが、そのころはすごく厳しい方というイメージでした。今回は、現場の臨場感を大切にしたいということで、アドバイスも最低限にして任せていただいたんです。最初は、本当にこれで大丈夫かなと思ったりもしたのですが、監督には絶大な信頼を寄せているので、監督がいいならOKかなと思いながら。もっとビシビシやっていただいてもよかったんですが(笑)。

―女優として信頼されている証ですね

いえいえ、全然そんなことないです。もともと女優志望でこの世界に飛び込んで、でも不器用で後悔ばかりしていて、今でも自信がないのでいろいろなワークショップに通っているんです。「なんでこんなことができないんだろう」という反省の日々ですね。まわりの役者さんからもすごく刺激を受けています。ようやく、物怖じせず演技できるようになった程度でしょうか…。いろいろなバラエティに出させていただいて、度胸はつきました(笑)。

20171130-01_sub03―完成した本作をご覧になっていかがでしたか?

監督のエネルギーと、ジェフ・ミルズさんの音楽に圧倒されました。怖さを掻き立てられる感覚は、これまでの日本映画にはあまりない感じでした。大森監督は、普段は穏やかな方なので、奥深さを感じました。音楽によって、映画の色が大きく変わった印象ですね。

―一番印象に残っているシーンはどこですか?

南海子と輔が草むらで話をするシーンです。南海子が初めてつらさを告白する、大切なシーンでした。そのときに、監督から「相手を信用して当たっていけ」とアドバイスいただいて、自分で抱え込むのではなく、相手と対峙して演技するように心がけるようになりました。私自身にとっても重要なシーンになりましたね。当日はどんよりくもっていたので、映像を見て、「こんなにきれいな草むらだったんだ」と感じたシーンでもありました。

―南海子もまた、闇を抱えています

信之、輔、未喜(長谷川京子)に比べると、南海子が一番、観る方が感情移入しやすい役柄かもしれません。でも、南海子も知らず知らずのうちに人を傷つけ、暴力的なことに巻き込まれていって、闇を抱えるようになるのですが、そういうことは日常でも起こり得ることなので、誰が見てもいろいろな解釈ができる内容だと思います。ある意味、南海子が一番怖いかもしれませんね。

―妻として、母として、女としての顔を持つ南海子を演じ分けたポイントは?

あまり作りこむようなことはしなかったんですが、それぞれの立場で対峙している相手に対して、南海子が思っていることを大事にしようと思って演じました。自然と表情にもそれが表れてきたと思います。

―最後にメッセージを

すごく魂のこもった、衝撃的な映画です。みなさん、心構えを持って、映画館の大スクリーンを通じてその迫力を感じてください。

―ありがとうございました

20171130-01_sub01橋本マナミ(はしもと・まなみ)
1988年8月8日、山形県出身。
1997年に芸能界デビュー。グラビアアイドルとして人気を誇る一方、女優としても活躍。主な出演作に、映画『闇金ウシジマくん』『きいろいゾウ』『オー!ファーザー!』『アキラNo.2』、ドラマ「不機嫌な果実」「せいせいするほど、愛してる」「女囚セブン」などがある。また、「バイキング」などバラエティ番組などでも活躍中。

ABOUT
東京の離島・美浜島で閉塞感のある日々を暮らす中学生の信之は、美しい恋人の美花がいることで、毎日が彼女を中心に回っていた。一方、信之を慕う輔は、父親から激しい虐待を受けており、誰もが見て見ぬふりをしていた。ある日、美花を探していた信之は、美花が男に犯されている姿を目撃。彼女を救うため、信之は男を殺してしまう。その夜、容赦ない天災が島を襲った。それから25年後、生き残った信之(井浦新)は、妻・南海子(橋本マナミ)や娘と共に生活していた。同じく生き延びた美花は、一切の過去を捨て女優・篠浦未喜(長谷川京子)として華やかな芸能界で貪欲に生き続けている。そんな2人の前に、過去の秘密を抱える輔(瑛太)が姿を現す。
配給:ファントム・フィルム
公開日:新宿武蔵野館、有楽町スバル座ほか公開中
公式サイト:http://hi-ka-ri.com/
(C)三浦しをん/集英社・(C)2017「光」制作委員会