
写真=坂本康太郎
―草笛さんとは以前から交流があったそうですね
そうなんです。草笛さんがおばあちゃんをやってくださると聞いてうれしかったです。人間そのものを描くので、私生活で交流のある方のほうが出せる良さが絶対にあると感じました。今回は、台本はあるけれど、私たちにしかできないドキュメンタリーのようなものを目指そう、と、草笛さんとお話ししていました。アドリブで進めるシーンもありましたし、相手が草笛さんじゃないとできなかったシーンがたくさんあったと思います。たとえば、キヨ(草笛光子)が初めて外で散歩をするシーンでの会話は、全部アドリブでした。
―人間模様を描くことに定評のある篠原哲雄監督作品。現場はどのような雰囲気でしたか?
篠原監督は、やさしい雰囲気のある方ですよね。でも、現場ではまさに「映画の監督」という感じの方です。スタートのときにすごく気合を入れてくれて、出演者はそこでスイッチが入るんです。あと、現場のスタッフさんたちを集中させるために声をかけたりして、厳しい面も持っていらっしゃいます。だから、撮影現場と、インタビューなど撮影現場以外の場所とでは、顔が変わりますよ。それぞれの役についても、絶対に妥協しないし、監督が納得するまでとことん話し合います。撮影中、台本にあるセリフが終わったあとも、篠原監督はしばらくカットをかけないんです。役者は即興でお芝居をしなければいけなくなって、監督曰く、「そこに、役と本人との関係性が映し出される」ということらしいです。役者としては、すごく大変でもあり、すごく楽しくもある現場でしたね。
―出来上がった作品を見ていかがでしたか?
エキセントリックな作品が流行ったり、エッジのきいた作品が話題になったりする中で、本作のような王道をいく作品というのは、どの時代にも必要なものというか、求められるものだと思いました。特に、おばあちゃんと孫、親と娘、結婚する2人…、どの人にも当てはまる日常の風景を切り取ったような作品が出来上がったと思いました。決して派手ではないけど、心にすっと染み渡っていくような作品で、日本の良さが出ていると思います。
―今年で30歳を迎え、今後への思いを聞かせてください
お芝居については、リアルに忠実な役を掘り下げていきたいと思っています。派手なファンタジーなども楽しいとは思うのですが、日常に起こり得るような風景を切り取った、観る人の誰にでも寄り添っていけるような作品を追求していきたいな、と思うようになってきました。特に、本作を撮り終わった頃から、その思いは強くなりました。舞台では、奇抜な役もやらせていただくことがありましたが、自分のデビュー作(佐々部清監督『三本木農業高校、馬術部』)でも、乗馬の練習をさせていただくなどリアリティにこだわっていたので、「私の原点はここなのかな」と思うようになってきたんです。そういう役こそ、お芝居をする上での根本的なものでもあると思います。…そんなことを言いながら、次回はすごいアクションとかやってたりしたらすみません(笑)。
―最後にメッセージを
核家族だったり、一人暮らしをされていたり、家庭のあり様はさまざまだと思うのですが、本作を見終わった後に、家族のことを思い直すきっかけになればいいなと思います。それから恋人とか、大切な人のこととか。見ることで、自分の身の回りの人たちの大切さを改めて感じられるようになる作品だと思います。
―ありがとうございました
文音(あやね)
1988年3月17日、東京都出身。
2008年、映画『三本木農業高校、馬術部』の主役として女優デビュー。第33回報知映画賞新人賞、第32回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。2012年、得意の語学力を活かし、ニューヨークへ演劇留学。2014年に帰国後、ドラマ「SAKURA~事件を聞く女~」(TBS系)などに出演。映画やドラマ、舞台に精力的に出演し、現在『おみおくり』が公開中。